ゆん

パラサイト 半地下の家族のゆんのレビュー・感想・評価

パラサイト 半地下の家族(2019年製作の映画)
4.5
「私は今、韓国映画を観ている!」という気持ちにどっぷり浸かることができた。
思えば初めてきちんと接した韓国映画はポン・ジュノ作品「殺人の追憶」だった。ミステリーとしての完成度は言うまでもなく、これほどの大作が、ここまで被差別者の視点を深く描くことに驚きと興奮を覚えた。題材や画面作りは常に猥雑かつ卑屈で悪趣味。「パラサイト」は変わらず、そんな韓国映画としての一貫したテーマを貫いていてくれた。

黄色く濁った白眼、脂ぎって毛穴の開いた肌が地下の暗闇の中でギラギラと輝いている。若さや美しさを良しとする一般的な価値観は、スクリーンの中で逆転することができる。韓国映画は常に、醜く老いた者や、貧しく洗練されていないものをフューチャーしてきた。本作ではそれが多数派へのカウンター的な視点であることが分かりやすく示されている。
重ねて素晴らしいのは、美しく洗練された富裕層にもリアルな命が吹き込んであることだ。特に金持ち一家の婦人は一見すると優雅なセレブだが、常に急くような慌ただしい表情や話し方、気を抜くと足を開いて座ってしまったり、やや情緒不安定気味なところなど、本当に生きている人間の生々しい生活感がコミカルにキュートに伝わってくる。暮らしぶりには天と地ほどの差のある家族同士だが、それぞれが独立した人間で形成された他人同士であることが平等に描かれている。

貧乏息子が二階から金持ち一家のホームパーティの様子を眺める瞬間は、圧倒的格差に打ちのめされながら己の職務を全うする決意をする名シーンだ。貧しいながらも賢い少年は、富裕層に対する軽蔑や、疎外感や、憧れを感じながら、現実に立ち向かっていく。
一方で貧しく愚かな貧乏父さんは何故か金持ち夫婦に好意を寄せる。人が良いのか単に流されやすいのか、夫妻とまるで貧富の差など無いかのように能天気に振る舞う。悪気なく、ただただ貧しく愚かで、ここぞというときに最悪の選択を選んでしまう。
この父親に合わせるように、頭のネジが一本も二本も足りない、基本的に馬鹿馬鹿しく単純明快に物語は進んでいくが、後半観客はいつの間にか身も凍るような事件を体験させられる。観客を殺しにいくとはこの事だろう。作品の規模が大きくなればなるほど思想的に丸く、共感できる分母を大きくしていくのが一般的だが、韓国映画、ことポン・ジュノ作品にはその心配は無用のようだった。

心から「リスペクト!!」
ゆん

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