ヨーク

月曜日に乾杯!のヨークのレビュー・感想・評価

月曜日に乾杯!(2002年製作の映画)
3.8
イオセリアーニ特集四本目。
今までの感想文で毎回のように「イオセリアーニの映画は緩い」と書いていた気がするが、現時点ではこの『月曜日に乾杯!』がぶっちぎりで緩々な映画でしたね。いやー、脱力しながらの居眠りがこんなに心地よい映画も久しぶりな気がする。一応言っておくと緩々で居眠りしながら観たからといってつまんない映画だったとかそういうことではないからな。どっちかというと面白かったし好きな映画ですよ。
お話は、う~ん…お話というようなお話もなかったなぁという気がするがこの感想文を書く前にフィルマークスに記載されているあらすじの項を見たら笑っちゃった。いわく「単調な毎日に退屈した中年男が、ある日思い立ってヴェニスヘ旅に出る」とのこと。そんだけ。いやでもそんだけの映画だよな。笑っちゃうくらいにそれだけの映画だけど、まぁでも人生ってそういうもんだしそういうこともあるよなぁってなる映画でしたね。
なんか毎日工場勤めしてるおじさんがそのことに嫌になって突然失踪するかのようにヴェニスへ旅に出るんだよね。でも別に家族という呪縛のような関係性から逃れるために! とかそんな大仰なこともなく単に何となく行ってみるかぁ、くらいで思い付きの旅行に行く。大学生が、面倒くさいから午前中の講義サボるか…くらいのノリである。んで映画は終始タバコをプカプカさせて飲みながら旅をするおっさんを映すのだ。いやもちろん、そこにはルーチンと化した日常から逃避することの重要性とかがフランス的なバカンス文化と共に語られているというのはあるのだろうが、それにしたって映画全編に亘る雰囲気は緩い。ここまで観た限り、イオセリアーニは緩くて見やすい映画を撮る人ではあるけど作品のテーマを分かりやすくセリフで説明したりはしないんですよね。だから本作も日常から脱却して非日常からの癒しとその外部性を経由して自身を取り戻すお話なのだとしてもその辺を噛み砕いて描写されたりはしない。
でもまぁそれでいいんじゃないのという緩さがやっぱイオセリアーニ作品のいいところで、おっさんがブラブラと気ままな旅行をしているだけの映画なんだけど観客はそれだけのことに楽しさを感じちゃうんだよね。タイトルは、月曜日から乾杯できるような非日常は楽しいよね、っていうのと、でもその後に帰っていく日常が始まる喩えとしての月曜日もいいもんだよねっていう二つの意味があるのだと思う。主人公がお家に帰ってきたときの嫁さんのあの感じとかいいんだよね。よすぎて都合良すぎだろこれ、とも思っちゃうけど。
後はもちろん、相変わらずの脱力感あるコント的なシーンとかは面白い。ピアノの件とか声出して笑っちゃった。ヴェニスで意気投合するおじさんが日常である職場へと戻っていくシーンとかもなんとも言えない哀愁があってよかったなぁ。でもやっぱ本作が凄いのはそういうところに強烈なメッセージ性とかはなくてするーっと流していくように映画が進行していくところですね。
まぁそんなに凄く劇的なことはないんだけど、ダラダラ飲みながらたまに旅に出たらいいんじゃないかなっていう映画なのだと思いました。面白かったというよりも好きな映画だな、これは。よかったです。
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