「目が合ったら襲われるという笑っちゃうくらい不幸な設定の主人公の姿が面白いだけでなく、ゾンビものとしても新鮮味がありそこに例の世界的なアレも重ねられるという多重構造はお見事。オチが読め読めではあるが面白かった!これすでにハリウッドリメイクの企画とか動いてんじゃないかな」と、これは本作『またヴィンセントは襲われる』を観た直後にブルースカイに上げた鑑賞後ほやほやの感想です。まぁぶっちゃけこれ以上言うことも特にない映画だったのだが、最後に、これすでにハリウッドリメイクの企画とか動いてんじゃないかな、と言っているが後に知ったところによるとどうも俺が本作を観た時点でとっくにハリウッドリメイクは決定していたらしい。いやー、さすが俺! 見る目あるなぁー! というただの自慢ですね、ハイ。
いやでもこの『またヴィンセントは襲われる』という映画はワンアイデアで勝負な傾向の強い安映画の中でもかなりハリウッド映えしそうなネタの作品だったので、そりゃそうなるよなーという感じではあるのですよ。それが何なのかというとあらすじ説明も兼ねて書くと、感想文の最初にあるように本作の主人公ヴィンセントさん(フランス映画なので正確にはヴァンサンだし字幕でもヴァンサンだが、日本での馴染み的に英語読みのヴィンセントにしたのであろう)はある日突然他人と目が合うと襲われるという理解不能かつ理不尽な現実に直面することになる。さっきまで普通に会話してた人が急に何かのスイッチが入ったかのようにボールペンとか手近にあるものを持ってヴィンセントさんに襲い掛かってくるのである。それもじゃれる程度のものではなく殺しに来る勢いで、である。こりゃたまらん、となったヴィンセントさんは仕事も休職して父親が所有している田舎の別荘に引きこもり可能な限り他人と接触しない生活を送っていく…という映画である。
この目が合うだけで襲われるという設定が中々にいい感じで、ぶっちゃけゾンビものの亜種的な見せ方にはなっているのだが相手がゾンビ化するための条件(それも凄く緩いもの)が付与されているという塩梅がちょっとしたゾンビものの新機軸と言ってもいいくらいの新鮮さで面白いんですよね。作中の描写としてもホラーとかスリラーという要素も多少はあるがそれ以上に笑っちゃう感じの演出が多かったように思う。だってさっきまで雑談してた人が急に首絞めてきたりするんだよ。そりゃヴィンセントさん的にはたまったもんじゃねーよ! という状況だが、残念ながらそういうのは他人事としてスクリーンの向こう側から眺めている俺のような薄情な客にとっては爆笑ものの展開なのである。
いやでも実際地獄のうんこレスリングと大型スーパーのシーンは劇場内でも結構大きめの笑い声が起こってたからね。理不尽さも度を過ぎると笑いになるというものなのです。そんな感じで今までありそうでなかったゾンビものっぽい展開をしながら進んでいく映画としては中盤くらいまでは面白かったのだがそれ以降はちょっとトーンダウンするというか、アクセルを踏む力が弱くなるというか、何んとなーくありがちな展開になっていってものすごく分かりやすい感じで物語は収斂されていってしまう。最初にオチが読め読め、と書いてあるのもそのためである。
おそらく本作を居眠りとかせずにちゃんと最初から観ていた客なら8割くらいは(これは暗喩として例の出来事を描いているんだろうな…)と思い至るであろうが、終盤のストーリーの展開が本当にそのまんまだったんですよね。そこはもうちょい捻ってくれてもよかったかなー、とは思うのだが、何だかんだで例の出来事を戯画化してそこにヒューマニズムを加えた希望のある展開にするにはこれしかないかなぁ、とも思うのでトータルとしては面白かったですよ。
まぁツッコミどころとしては視線が合うとダメなんだったらサングラスをかけて他人に接してみるとかは誰でも思いつくだろうに主人公がそういうことを試すシーンが無いというのはダメダメだなぁ、とは思いましたけどね。さらに突っ込むなら20世紀ならともかく現代のハイテク環境ならカメラとモニターを駆使すれば素顔を晒さなくても他人とコミュニケーションを取ることは十分に可能だと思うので、そこら辺のツッコミどころは是非ハリウッド版でブラッシュアップしてほしいなというところでした。
てかハリウッドのそういう風に詰めた設定で面白い状況を作り上げるのとかは大得意だから本作のハリウッドリメイクというのは結構期待できると思うんですよね。もちろん、本作単品で言ってもわりと余韻のあるラストシーンとかは良かったですよ。
ま、そこまで期待しすぎずに観たら面白い映画なじゃないでしょうか。
最後に、主演のカリム・ルクルーという人は全く知らなかったけどすげぇ理不尽に襲われまくって泣きそうな顔で逃げてる表情とかは最高だったので本作の主役としてはベリー・ナイスなキャスティングだったと思いますね。ハリウッド版でも主役やってほしいくらいにかわいそうなのに笑える顔だった。