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下女のblacknessfallのレビュー・感想・評価

下女(1960年製作の映画)
3.5
ポン・ジュノが『パラサイト 半地下の家族』の参考にしたことから知名度が高まった映画。
その前から特異な作風のキム・ギヨン監督の代表作として知られてはいたけど。

パラサイトと似てるのは裕福で幸せな家庭に他人が入り込み家庭に歪みが起るとこ。
でも、こっちは主人が一時の気の迷いから家政婦と関係してしまい家庭がドロドロ愛憎劇の修羅場になっていくというもの。

家政婦もパラサイトみたいに何か企みがあっての行動じゃなくて普通に主人に惹かれて愛人関係になってしまうから参考にしたとは言え共通点は少ない。

よくある話なんだけど下女がカルト映画になってるのはキム・ギヨンの異様な作風とそのイメージを体現した下女役イ・ウンシムの演技に尽きる。
この2つの科学反応で唯一無二と言っていいムードを醸し出す異様な映画になってる。

下女のイ・ウンシムがとても不気味。一般的な愛人のイメージにある色気みたいのはなく不穏で虚ろな雰囲気、スタイルもスマートを通り越したスレンダーで顔も眼球が大きくギョロとして爬虫類を思わせる。人間のリアリティーじゃなくて楳図かずおのマンガに出てくる神経質でホラーな感じ。

気持ちをざわつかせる不気味さのある佇まい。
そんな彼女が主人に秋波をヌメェとした目線で送ったり。本妻に嫉妬して怒り狂う様子はまんまホラーコミックで怖いがどこか滑稽で現実離れしてる。
彼女が主人の子を妊娠し同じく腹に主人の子を宿した本妻に中絶を強要されてから、徐々に家庭の主導権を彼女が握っていくくだりの演技は凄まじい。ヌメリを帯びた表情で時に夫婦を責め怒り狂い、妻ではなく自分と寝室をともにするよう懇願する様子はどれも神経を逆撫でする何とも例えがたい気持ち悪さがある笑

そんな彼女のエキセントリックでヌメヌメした演技にマッチしずきたキム・ギヨンのカメラワークもやはりキモい。
ストーリーが一軒家で主人家族と愛人が延々と対峙する息苦しいものの上、8割方家の中で話が展開することからくる閉塞感。
雨のシーンが多くそれが話の陰湿性とイ・ウンシムのヌメヌメ演技と相乗効果でいやな湿気が画面に立ちこめる。
シーンによって画面を歪ませ、それがやはりイ・ウンシムの湿気の高い気味悪さと不穏な空気をより濃いものにしてる。
そのせいか、リアリティーのある話なのにブラックユーモアの奇譚、寓話のようなテイストもある。

限定空間で限りなくいやーな話をエキセントリックでシュールな演出で見せられ、湿度の高い負のオーラに侵食されていくような恐怖に襲われる。
それでいて最後は呆気かんと明るく軽いシーンで
終る笑 これも妙に皮肉なセリフがあり、どういう意図でこのシーン入れたのか、何を言いたいのか真意を図りかねて不気味に感じる。
不倫映画でこんなに倫理的にも生理的にもキモい映画は他にないと思う笑
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