イルーナ

イングロリアス・バスターズのイルーナのレビュー・感想・評価

4.0
20世紀の世界史において最大の闇、ナチスドイツ。
その被害者であるユダヤ人たちの復讐計画が、映画館に交差する───

本作、ジャンゴ、ワンハリと、歴史の闇に痛烈な一撃を与える作品を撮るようになったタランティーノ。
史実ではどうしようもなかった悪に裁きと復讐を!というテーマは、被害者側はもちろん、子々孫々まで罪悪感が受け継がれた加害側の民族・人種にとっても痛快そのもの。
特に本作では、「映画を悪用し民族も国家も差別・弾圧するナチスVS映画を物理的に用いて復讐するユダヤ人」の構図が描かれており、映画をこよなく愛するタランティーノらしいやり方と言えます。
元映画評論家の英国軍人とか、あれ絶対趣味でしょ?

そんな本作ですが、やはり何といってもランダ大佐ことクリストフ・ヴァルツの怪演が素晴らしい!
言動は物腰柔らかで紳士的ですが、多言語を操る知性に鋭い洞察力を併せ持ち、巧みな話術でジワジワと相手を追い詰める。
冒頭の尋問シーンといい、会食シーンといい、この人が出てくるだけで作品の空気が一気に凄まじい緊張感に包まれます。
(農場主ラパディットが徐々に追い詰められていく演技もすごい)
実際、このランダ大佐のキャスティングは最後まで難航していたそうで、英語・ドイツ語・フランス語を話せてなおかつ紳士的で能弁な策謀家のイメージにぴったりの俳優は中々いないでしょう。
そういう意味で奇跡のキャスティングだし、クリストフ・ヴァルツはこれが当たり役となって大ブレイクしたというのも運命的。
また、あの会食シーンでシュトルーデルを頼んだのは、「当時はバター不足のためパイ生地はラードで作られていたが、ユダヤ人は戒律により食することができなかった」「クリームも、乳製品と肉が同時に胃の中にあってはならない規律があるので食べられない」から。
その上、冒頭で登場したミルクも注文していたので、名前を変えていたショシャナの正体を見破っていたのでは?と考察されるほど。
実際の食事法には「状況が自分の命を守るためにそうする必要がある場合には、これらすべての規則は停止される」ともあるそうなので根拠は弱いと思われますが、こうした考察が成り立つ時点でこのキャラクターは強いですよ。

逆にバスターズの面々は強烈な田舎訛り・野蛮そのものな戦い方とナチの面々とは真逆。
(酒場のシーンは彼らにとって不運だけど、ナチ側にとっても子供の誕生パーティーの最中だったから不運……)
プレミア上映会にイタリア人に扮して潜入するところなんかおかしい。
「ゴーラーミ!」とか「アントニオ・マルガレェ~テ!」と、発音が稚拙でランダ大佐にはバレバレ。
そんな奴らが、映画館側の復讐計画と重なり最大の歴史改変をやってのけてしまう所はまさにカタルシス満点!

しかしこの作品、タランティーノが現在ゴリゴリの親イスラエルとなったことを考えると、どう見たらいいか困ってる人多そうです……
いくら作品と作者は別々に考えるべきとは言っても、そもそもの作風がイスラエルの気質とマッチしているのがもう。

アニヲタwikiにまとめた記事
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/55616.html
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