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エイリアン2 完全版のKuutaのレビュー・感想・評価

エイリアン2 完全版(1986年製作の映画)
4.1
アリータが思いの外楽しかったのでキャメロンで何か見ようかと、完全版を鑑賞。今更語るまでもないですが…。

リプリー(シガニー・ウィーバー)に娘がいて、漂流中に亡くなっている事が分かるという完全版だけの展開は解釈上かなり重要。

劇場公開版だとリプリーが単に海兵隊の無能を嘆く、戦闘狂に見えてしまう感じがあった。このシーン追加で、ニュート(キャリー・ヘン)を守ろうとするリプリーの母親としての思いがより伝わるし、海兵隊にはドライなのにニュートだけは必死で救いに戻る展開にも説得力が増す。ラストでニュートから「ママ」と呼ばれる意味も深まっている。

エイリアンクイーンとの「子を守る母の戦い」。母になり損なったのはエイリアンのせい、とも言えるからこそ、リプリーには「直接戦って奴らを根絶やしにしたい」という明確なモチベーションがあった。「エイリアンを積極的に倒す」という前作と真逆の展開ながら、きちんと二つのお話が繋がっている。

クイーンとの初遭遇の場面は、クイーンからしてもヒヤヒヤもののシーン。「卵を焼き払うぞ」と目で威圧するリプリー。クイーンはそれに応じてエイリアンを後退させるのに、リプリーは火炎放射をぶちまける。あと数分で爆発するんだからそんな事しないでいいのに、やらずにはいられなかったのだろう。執念深く追いかけて来たクイーンにかける言葉"Get away from her, BITCH!!"も、完全にママ友の罵り合いという感じ。

また、心がボロボロになり、人が信じられなくなったリプリーがニュートの救済を通して自分の人間性を取り戻す話のようにも見えた。彼女を守る事が自分を救う事にも繋がる。

ヒックス(マイケル・ビーン)との交流(ファーストネームで呼び合う場面が完全版で追加された)は、リプリーが他人への信頼を取り戻す貴重なシーンだ。ニュートが人形を肌身離さないのも、ニュートにこだわるリプリーの合わせ鏡のようで、象徴的。映画は1人で寝ていたリプリーのショットに始まり、ニュートと共に眠るリプリーで終わる。

前作が徹底して「見せない」恐怖を煽る密室ホラーだったのに対して、今作は次々に敵が押し寄せる「戦争」。セントリーガンの弾薬がどんどん減る場面(これも追加シーン)は、敵に攻め来られる焦燥感、という今作のアクションの基本テーマを示している。レーダーを見せて「囲まれている」状況を示す演出は、前作設定ではやりようもないし、上手い手法だと思った。

ビショップ(ランス・ヘンリクセン)の序盤の不穏さも、巧みなミスリード。ナイフの度胸試しで血を流している=機械にエラーが出始めていると印象付ける。

弛みきった宇宙海兵隊。血は酸性だと言っているのに露出の多い服を選び(飛び散りの被害がシーン毎でまちまちなのは気になった)、フェイスハガーがいるっつってるのにヘルメットを用意しない。見る度に彼らの無能っぷりにイライラするのが個人的エイリアン2の減点要素(一喜一憂して楽しんでるってことなんですが)。

パワーローダーの操作を細かなカット割りで見せる。メカのワクワク感の煽りとして完璧。後光が差す中での再登場は失笑する人もいるだろうが、あれは支持せざるを得ない。

完全版限定のシーンとして、リプリーが序盤、ベンチに腰掛けてスクリーンに映された森を眺めるシーンがある。近未来の施設である事を示すだけでなく、今作で多用されているスクリーンプロセスへの自己言及だったりするのかな、と思った。

基本のデザインは前作の拡張版だが、メカの造形、煙、いかにもキャメロンっぽい青の照明、あとはジェームズ・ホーナーの音楽が最高だった。83点。
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