砂場

ブラック・サンデーの砂場のレビュー・感想・評価

ブラック・サンデー(1977年製作の映画)
4.7
昔見た時より時代のせいかインパクト巨大、大傑作!

ーーーあらすじーーー
-ベイルート
女が何やら怪しげな作戦を進行している。アメリカ海軍兵士のベトナム戦争について政府への恨み辛みフィルムの上映。仲間内ではアメリカはパレスチナ問題に目を背けているという会話。テープにテロを予感させるメッセージを録音。
特殊部隊が女たちの隠れ家を急襲、テープを押収し隠れ家を爆破。しかしリーダーの男はシャワーを浴びていた女を殺さなかった。
-ロサンジェルス
スーパーボウルのスタジアム、数万人の観客、上空の飛行船
-ワシントンDC
FBI関係者、イスラエルの高官、ベイルートで隠れ家を急襲したカバコフ少佐(ロバート・ショウ)が集まっている。テロを予感させるテープの再生、反イスラエルのテロ集団「黒い9月」が関係しているようだ。
-ロス
ベイルートの女ダリアがロスに到着、自宅が荒れている、同棲相手のマイケル(ブルース・ダーン)はテロの武器を製作している。外面は真面目に復員センターに通う。
女はムツァイという輸入業者を使い武器を香港経由で持ち込む手筈、小型
ボートに荷物を下ろし逃げ去る。
モサドのカバコフは積荷を運んだスマ丸の捜査をするが事情を知る船長は爆殺、カバコフも怪我を負う。ダリアとマイケルは寂れた飛行場の建物で無数のダーツ発射実験。
女の身元も写真も手に入らないカバコフは今回は利害が一致するだろうと強引に中東の敵国に協力を頼む。ダリアは家族をイスラエルに殺された過去があった。イスラエルを支援するアメリカに対するテロの動機はそこにあり、ベトナム戦争でアメリカ政府からも家族からも見放されたマイケルと組んだのだ、
ダリアの仲間ファジルがダリアに君の身元がばれたと警告する。その後包囲されたファジルはカバコフに撃ち殺される。ファジルのアパートからスーパーボウルのパンフレットが発見され、ここがテロの標的だと判断した。ダリアはマイケルから飛行船パイロットを首になったという報告を受け作戦遂行が危うくなり激怒する。マイケルは捕虜時代に受け取った写真に妻からと子供の写真にうつる撮影者の影がトラウマになっていることを思い出し、二人はテロの決行を決意する。


<以下ネタバレあり>
スーパーボウルが始まり、数万の観客、大統領が観戦している。大量の警備体制。ダリアは飛行船の操縦士を殺し、マイケルは代わりに乗り込む。エンジントラブルを装い基地に引き返し爆弾を飛行船の下部に装着する。操縦士の死が発覚し飛行船の基地に警察が到着するが既に飛び立ってしまった。カバコフとFBIは飛行場のヘリに乗り込み飛行船を追撃する。上空でダリアとカバコフは目が合い、カバコフによって二人は撃ち殺される。しかし飛行船はスタジアムに侵入してしまった。ヘリのフックを引っ掛けて飛行船の軌道を変え海に向かわせる。マイケルが導火線に火をつけていた、飛行船は海の上空で爆発、無数のダーツは海に放射された。
ーーーあらすじ終わりーーー


ニュース映像のような、次に何が映るかわからないようなヒリヒリ感と
リアルさにのっけから引き込まれる。
CGの無い時代なのに巨大飛行船がスーパーボウルのスタジアムに突っ込むという映像が見事で、顧客視点で満員のスタジアムにのっそりと巨大な飛行船が現れる場面は映画史に残る!
CGだとカットを割る必要がないので、緊迫感がかえって出しにくいかもしれない。
当時は巨大さを表現するのに現実の飛行船とスタジアム、逃げ惑う人々などを細かくカットを割ることでいかにもそこに出現するような感じを出す必要があり、映画の生理として結果的に緊迫感が出る。

本作は飛行船とスタジアムの迫力が強く記憶に残るが、俳優たちの演技が素晴らしいのでこの世界観に説得力を与えている。
カバコフ役のロバート・ショウは冷酷な特殊部隊だが同僚の死にうっすらと涙を浮かべる、
一番難しい役がマイケルだと思うが、ブルース・ダーンは名演。ベトナム戦争で捕虜になっている6年間の苦しみ、収容所に届いた家族写真にうつる撮影者の影を思い出し嗚咽する姿。
一方で周囲を騙すときの態度は実に快活な青年。複雑な人格を見事に演じている。
ダーツ爆弾テストを寂れた倉庫で行い、無数に空いた穴から日の光が差し込む、このシーンはやばいぐらいに美しい。テロの準備に美しいなどと不謹慎だが本当に美しい。

本作の公開が1977年、原作は1975年に書かれている。世界を震撼させたテルアビブ空港無差別テロが1972年5月。同年8月にはスピルバーグも映画化した「黒い9月」によるミュンヘン選手団人質事件。
この流れを考えると今そこにあるテロという緊迫した状況での映画製作だったと思う。
本作のテロはパレスチナ問題を背景にしたものと、ベトナム戦争の後遺症の悪魔合体である点がユニークで、普通に考えると二つは重ならないのだけどもテルアビブ空港テロもPLOと日本人の赤軍派が起こした悪魔合体だったのであり、原作者のトマスハリスもフランケンハイマーもテルアビブテロのイメージがあったのではないか。
この映画の冒頭のベイルートのアジトには東洋人がおり、多分赤軍派のイメージだし武器輸送は日本船籍の商船だ。この辺原語ではジャパンというセリフがあるけどなぜか字幕では書かれてない。

飛行船のテロ計画が大規模殺戮すぎてこれを体を張って止めるモサドが一見ヒーローっぽいが情報提供した中東某国の大使がカバコフに言う、「ダリアを作り出したのはお前たちだ」というセリフが重い。
また終わりもハリウッドにしてはブッツリ切られていて、カバコフが称賛される場面などもなくこの事件の根本原因はなんなのか考えさせられる。

テロ予告があってもスーパーボウルを中止できないとか実にリアル
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