砂場

DOGMAN ドッグマンの砂場のレビュー・感想・評価

DOGMAN ドッグマン(2023年製作の映画)
5.0
近年のリュックベッソンだと『ルーシー』がかなりのトンデモだったので、本作もあまり期待しなかったんですが、予告の雰囲気が良かったので観てきたら、想像以上に素晴らしく圧倒され何度か涙ぐんでしまった

『ニキータ』っぽい道路が流れるオープニング、冒頭の警察による取り調べの場面からして緊張感で引き込まれる。
トラックを運転するのは女装の男のようだ、、、この怪しさが強烈だ。
ざらっとしたチープな映像は、初期作を思わせる。業界内で地位を確立した大物監督があえて低予算にチャレンジしたように思える。そしてそのチャレンジは成功した!

ダグラスの少年時代、父親からの壮絶な虐待。兄は父の奴隷のようになっており、母は逃げた。アメリカの片田舎、おそらく保守的で閉鎖的な町。敬虔なキリスト教徒の父は家族に対しては暴君なのだった。この辺の二重性は恐怖だ
兄が掲げる、”in the name of god(神の御名において)”、裏側から読んで、Dogman、、、というアナグラム。
目を背けたくなるような父親の虐待、というか犯罪。賢い犬により窮地を脱した少年ダグラス。

物語は、収監されているダグラスをケアするカウンセラーのエヴリンとの会話の中で回想が挟まる形式だ。
ダグラスを演じたケイレブ・ランドリー・ジョーンズが強烈な負のオーラを放つ(褒め言葉)、『ジョーカー』のホアキンを超えたのではないか。捨てる神あれば拾う神あり、あこがれの劇団員サルマへの淡い恋、ドラアグクイーン仲間に支えられ見事なエディット・ピアフのステージをこなす。

このステージあたりで目頭が厚くなる。ここまで来てリュックベッソンの初期作とは似てるけど、違うなあと思った。80年代の頃は乾いた感性が新しい時代を感じさせたが、本作『ドッグマン』は全然乾いていない、完全にウエット、温もりがあり、じっとりとしていて人間の感情の根っこが剥き出しになっている。
キリスト教、シェークスピア、エディット・ピアフ、マリリン・モンロー、マイルス・デイビスという古典への回帰も昔にはなかった感性だろう。80年代のリュック・ベッソンはニューウエーブ的に時代を作ったが、今作はむしろ古典であろうという意志を感じる。その点では初期作よりも深いものがある。

ラストの銃撃戦への流れもうまい、ちゃんと見せ場を作っているのでカタルシスはある。絵作りは70代のブラック・スプロイテーション的でチープさがたまらん、、人体破壊はほぼ無くておとなしめでありそれを好む層には物足りないかもしれない。個人的には別に人体破壊を見たいわけではないのでこのくらいでいいが、、、
ラストの背景の合成(黒沢清的な?)も謎の空気感を出している。

犬は本当に可愛い、うちで飼っているジャーマンシェパードも活躍するし、準主役級のドーベルマンも可愛い。コーギーも可愛い、この犬の演出部分で評価が甘くなるのは否めないが

もう一度くらい劇場で見てみたいが、個人的今年の映画ベストの上位には入る作品だった。
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