砂場

美と殺戮のすべての砂場のレビュー・感想・評価

美と殺戮のすべて(2022年製作の映画)
4.7
ナン・ゴールディンの写真は性的に過激なイメージがあるけど、大昔写真雑誌で普通のファミリーを撮ったカラー作品を見たことがある。その時に感じたんだけども普通でいて普通ではない何か、静止画なのに動画のようなアクション感、吸い込まれそうな迫力。

ナン本人の生き様についてはなんとなく想像してたけどこの映画で初めてわかった。

姉の自殺が彼女の出発点だったのだ、もう何十年も前のことなのに今でも姉のことを慕っていてこだわり続けている。
姉は心の病ではなかった、むしろ病院に行くのは母親だったという精神科医のレポート。60年代ではまだ毒親による精神的虐待をケアするようなシステムや社会的同意がなかったのだろう。

それにしても驚くのはナンははっきり言って姉を死に至らしめた親を憎んでいる、子供を持つべきではなかったのだという。それでも両親がこの映画には登場する。老いた夫婦が二人で部屋でダンスするシーンがある。母親はコンラッドの「闇の奥」の一節を読み上げる。姉の遺書に引用されていたのだ。画面からは和解の雰囲気はない、むしろ穏やかな老夫婦の表情の裏にある恐ろしいものを見ちゃったような恐怖を覚えた。

オピオイド中毒の原因となった製薬会社に対する抗議。巨万の富はメトロポリタン美術館やルーブルに流れている。美術館での抗議行動、その成果は徐々に表れて来るのだった。

姉のこともそうだが、オピオイド中毒の件もナンはそう簡単に忘れないし、徹底的に詰める。何十年もだ
その胆力のようなものは写真作品にも表れていると思う。

そうか昔ナン・ゴールディンの写真を見て感じた迫力は彼女の生き様にあったのだなあ
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