亘

ミルドレッド・ピアースの亘のレビュー・感想・評価

ミルドレッド・ピアース(1945年製作の映画)
3.9
【娘よ】
ミルドレッドの夫モンティ・ベラゴンが銃殺される。警察は彼女の元夫バート・ピアースを逮捕するが、彼女は彼の関与を否定。ミルドレッドは、自身の結婚生活を語り始める。

自立した女性ミルドレッドの反省をつづった作品。冒頭殺人シーンが起こりミルドレッドは不審な行動をとる。どうやら彼女は知り合いウォーリーに罪を着せたいようで、元夫バートの容疑を否定する。ここまで彼女は悪女に思えるけど、彼女が昔の話を始めると次第に彼女の思いが明らかになる。はじめ悪印象だった分彼女の境遇は不憫に思えて、終わるころには彼女に同情さえしてしまう。

バートとの結婚生活
ミルドレッドと元夫バートとの間には、ケイとヴィーダ2人の娘がいた。しかしバートが職を失い浮気をしてから2人は別居する。ミルドレッドはウェイトレスとして働き始めるが、上流階級にあこがれる長女ヴィーダは、肉体労働をする母を嫌厭する。ミルドレッドはレストラン経営を思いつきベラゴン氏の持つ土地に目をつける。そんなある日次女ケイが肺炎で亡くなる。

このパートは主に後に続くパートの背景だろう。ミルドレッドと前夫バートの生活はいかに終わったのか。いかにミルドレッドが実業家となったかを表している。そして次女の死はこの後のミルドレッドに影を落とした。

娘ヴィーダの浪費癖
ミルドレッドは、レストラン経営を始めると商才を発揮。たちまち繁昌してチェーン展開をする。ミルドレッドが忙しくする一方で、長女ヴィーダがベラゴンの派手な生活に触れ浪費癖を身に着ける。ただベラゴンの生活は破綻していて、ミルドレッドが稼いだ金はベラゴン・ヴィーダの浪費に消えていたのだ。

このあたりからミルドレッドへの同情が始まる。ミルドレッドは自立した女性だったが、彼女の自立はベラゴンというダメ男によって脅かされていた。しかもミルドレッドが忙しくなるにつれ娘にかける時間が短くなりヴィーダはベラゴンの浪費癖を吸収する。ミルドレッドにとっては嫌な時期だっただろう。

ベラゴンとの決別と結婚・事件当日
ミルドレッドは、ヴィーダの浪費癖を嘆きベラゴンと距離を取り始める。それでも金にがめつくなったヴィーダは偽証をして金をせしめるようになったためミルドレッドはヴィーダを追い出す。しかしヴィーダを想うミルドレッドは、娘を取り戻すべく"ベラゴン氏のような生活"を手に入れようとベラゴン氏と結婚、見事ヴィーダを奪還する。ミルドレッドはヴィーダに贅沢な生活を許すがその結果会社の経営が悪化。さらにベラゴンの裏切りを知る。そしてついに事件が起こる。

ミルドレッドの母としての娘への思いを感じるパート。ヴィーダは浪費癖がついているし母親に反抗的だし、端的にいうと悪い娘。それでもヴィーダが自分の娘であることには変わりない。特にミルドレッドは次女ケイを失っているからこそ長女ヴィータへの想いはひとしおだったのだろう。ベラゴンとの結婚は全く望まないが娘のためには仕方がない。この決断にはミルドレッドの強い思いと共に悲壮ややるせなさも感じる。だからこそ余計この事件とラストシーンは、本当にミルドレッドが不憫だし同情してしまう。一方でもしかしたらミルドレッドは子離れが出来ていなかったのではないかとも思う。

さて、ミルドレッドはモンティ・ベラゴンと結婚していたから、本名は"ミルドレッド・ベラゴン"のはず。なのになぜタイトルは"ミルドレッド・ピアース"なのか。きっとこれは彼女がベラゴンとの結婚を嫌がっていたからだろう。彼女にとって2度目の結婚は愛のためではなくて娘の奪還のためだった。彼女は心の中ではまだベラゴン夫人と認めていなかったのだろう。それに今作は最後ミルドレッドとバート2人がともに歩く姿が映る。これもまた彼女がかつての"ミルドレッド・ピアース"に戻ったということを表しているのだと思う。

印象に残ったシーン:ヴィーダがミルドレッドに反抗するシーン。ミルドレッドがベラゴンとの結婚を決意するシーン。ミルドレッドが犯行を自白するシーン。
亘