クロ

動くな、死ね、甦れ!のクロのレビュー・感想・評価

動くな、死ね、甦れ!(1989年製作の映画)
4.8
第二次大戦末期頃の旧ソ連の極東、共産主義の軋轢の元、流刑地がある寒村で生きる人々。大人たちは粛清に怯え明日のパンに事欠く惨めな日々をやりすごすので精一杯。ならばとばかり子どもたちはゲスな遊びやら奪い合いに興じる。

ささいなきっかけでヒステリックに手を上げるワレルカの母、盗みを働くもの、彼を小突き回し殺せとなじる観衆、粛清を生き延びたものの狂人になりはてた学者、生まれたばかりの猫を水に沈めて間引く老婆、かたわになった兵士、子供を産み恩赦で流刑から逃れるために半狂乱で性交をせがむ少女。監督は救いようのない穢土の住人たちの寒々とした日常を眈々とフィルムにとらえる。

ワレルカはお調子者で無鉄砲な少年、ガリーヤは口汚く常時ぶすくれ気味の眉間の皺が男前な少女。彼女はワレルカと絶妙な距離を保ちつつ、彼がピンチの時は、いかにも「このアホが」みたいな顔でふっと現れて救いの手を差し伸べる。その「しょうがないなーのび太くんは」的まなざしがとても優しい。

幼く純粋であるということはそれだけで残酷だ。こんな世界では奪われ汚されていくばかりだから。最後のガリーヤの遠くを見やる横顔は来たるべきワレルカとの別れを見越して、大好きだった彼との日々を慈しんでいるようにも、彼の未来を案じているようにも見えた。
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