ふき

アウトローのふきのレビュー・感想・評価

アウトロー(2012年製作の映画)
3.5
本作は本質的にミステリーであり、会話劇だ。
容疑者に仕立て上げられた「ジェームズ・バー」なる人物を巡り、トム・クルーズ氏演じるジャック・リーチャーが、法にも倫理にも縛られない、“彼自身の正しさ”を貫く姿を楽しむ作品だ。

本作で特徴的なのは、検事であるアレックス・ロディンと、その娘であり父と対立している弁護士のヘレン・ロディンは、冒頭ではどちらも「ジェームズ・バーが犯人である」ことは疑っていない点だ。そこに「ジェームズ・バーは犯人ではない」と確信するジャック・リーチャーが割り込み、シャーロック・ホームズのように鮮やかに真相を見出していく。
そして弁護士が具体的に調査に乗り出す過程で新たな問題や事件が生まれ、ジャック・リーチャーのアクション性が発揮されると共に、問答無用のクライマックスに縺れ込んでいく……。

ところで、本作の面白味はあくまで会話劇だ。とんちのきいた潜入や、大規模な銃撃や、何台もの車が爆発炎上するカーチェイスはないし、冒頭で「逮捕された人物は真犯人ではない」ことが映像で明示されるように倒叙ミステリーなので、「実は主人公が間違っているのではないか」的なサスペンスも発生しない。
言ってしまえば、本作で語られるお話は“地味”なのだ。
だからこそ、原作小説にもあるアクションシーンを大きく展開させることで、「トム・クルーズ主演のハリウッド型娯楽アクション超大作」的な売りにしたのだろう。
だがその構成のせいで本作は、ミステリーとアクションの「どっちつかず」になってしまった。

まずミステリーとしては、決着をアクションに委ねたことで完全に腰砕けになっている。検事側が黒幕を追及していく部分や、ジェイ・コートニー氏演じる実行犯のチャーリーがどう犯行に及んだのかが描かれないから、いくら動機や黒幕が明らかになっても「ジェームズ・バーの無実を証明する」という結末が見えてこない。そのままクライマックスの銃撃戦に入るので、「このまま追い詰めていいの?」「もう立証できるの?」と不安になり、案の定「私を立証はできない」と指摘されたトム・クルーズは黒幕を射殺して解決させてしまう。確かに「アウトロー」なキャラクターに則った行動ではあるのだが、面白くはない。
アクションとしても、キーシ・ファイティング・メソッドを取り入れた肉弾戦はともかく、カーチェイスと銃撃戦はリアルなタッチで地味な上に冗長だ。しかも銃撃戦でチャーリーとの狙撃合戦をするのは射撃場の主人で、ジャック・リーチャーとチャーリーの狙撃合戦がないし、ギャグ的に渡されたナイフも結局使わないしで、妙にキモを外している。ジャック・リーチャーが屋内戦でコメディ的にやられるのも、射撃場の主人に半人前として扱われるのも、トム・クルーズ氏のキャラには合っているが、受話器をガチャンガチャンやっていたジャック・リーチャーの狂気とはズレるよな、と感じてしまった。

総じて、「見ている間は楽しいけど、二度は見ないだろうな」という感想に落ち着いた。
アクションをもっとスパイス的に使って落ち着いたトーンに統一するか、アクション全面展開するか、どちらかだろう。
ふき

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