シネラー

博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったかのシネラーのレビュー・感想・評価

4.5
スタンリー・キューブリック監督の
代表作の一つであり、
当時の冷戦を皮肉に風刺した
本作を再鑑賞。
核兵器による人類滅亡を喜劇的で
皮肉めいた形で描く、
個人的にキューブリック作品の中でも
一番好きかもしれない映画だ。

物語としては、
常軌を逸したアメリカ空軍の司令官が
水爆を積んだ爆撃機をソ連に向けて
出撃させてしまった事で巻き起こる
政治模様となっている。
緊迫した状況下においても
間の抜けた会話劇が描かれていくが、
純粋な喜劇としてのジョークもあれば、
人類滅亡が迫る中での人間性の愚かさを
感じさせる会話や描写もあり、
それが物語の皮肉さを際立たせていると思った。
そんな中で劇中のストレンジラブ博士
をはじめとする3役を演じた
ピーター・セラーズだが、
言われても気づかないような
演じ分けが凄かった。
又、銃撃戦の場面も描かれていくが、
本当に戦場カメラから撮影したような
臨場感が感じられて良かった。
加えて、国防総省内の会議場の
巨大スクリーンの美術は、
流石キューブリック作品だと思った。
そして、結末における場面転換は
恐怖感が強く残るエンディングであり、
鳥肌が思わず立ってしまう
ブラックコメディの真髄と言える風刺だった。

製作当時としては
冷戦の真っ只中である上に、
公開2年前にはキューバ危機という
本当に核戦争が起こり得る時代だから
こそのメッセージ性があると思った。
更には、そのキューバ危機において
ケネディ大統領にキューバ空爆を
提案した将校が作中の登場人物の
モデルにされている等、
時代背景的な面白味も感じられる
内容であるのも本作の魅力だった。

本作が今後も皮肉めいた風刺映画
として鑑賞できる事を願うばかりだが、
少なくとも本作を観ても
核兵器を愛せるという人は
正気な人間ではないと言えるだろう。
政治批判や戦争批判の風刺が
詰まっている映画でもあるが、
人類滅亡の状況に追い込まれても
愚かで脆弱な人間模様が現実味を
帯びていると思った。
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