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ブラック・ブレッドのemilyのレビュー・感想・評価

ブラック・ブレッド(2010年製作の映画)
4.4

スペイン内戦後1940年代のカタルーニャ地方の田舎町、11歳のアンドレウは森で事故で死にかけてる幼馴染とその父親をみつける。命が尽きる前に発した言葉が、ピトルリウアという怪物の名前だった。この事故は調査の結果、殺人事件とされ父は共和派のため容疑者に。父は身を隠し、母は仕事にあけくれる。アンドレウは祖母の家にひきとられ、ヌリアに出会う。羽が生えたような裸で走り回る少年にも出会い、怪物ピトルリウアのような彼に惹かれていく。事件の真相が徐々に明らかになり、少年が取る行動とは。。

冒頭から馬の足をハンマーで殴って落下させるシーンだ。これは本物の馬なのだろうか、かなりリアルな映像にこれから見せられるものへの恐怖を、感じる。

実際描写はグロテスクではないが、勝者と弱者のボーダーラインをしっかり引いており、教育の場でもそれをたたきこまれ、弱者は勝者のいいなりなのだ。弱者がさらに自分より弱い立場の者を精神的にも、肉体的にも、残虐に痛め付ける現実。善悪ではなく、生きるための手段として、おこなってきた事が、子供に知られることで、その現実の重みが、何倍にもなって覆いかぶさり、少年らしい笑顔が消えていく。

11歳はまだまだ子供であるが、善悪の分別は充分につく。ドアの隙間から、壁越しに、少年は大人の会話を聞き、静かに未来を見据えるのだ。大切なものを打ち破られた時、ただ耐えるのではなく、賢く生きる道を選ぶ。

それは、大人が彼を利用し奪ったように、のし上がりを誓うのだ。

ミステリーから人間ドラマに色を変え、濃厚な現実と美しい自然の色彩の交わり。深い霧が開けるように現実が明るみになっていく美しい描写に対比する現実の重さは、冒頭のシーンから全てを物語っている。ただそれでも心はいつだって自由だし、誰にだって見えない羽はある。せめてこころの中では羽を広げて飛んでいてほしい。
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