海辺の街モハン。バカンスに訪れたフランス人のアンヌーー成功した映画監督、浮気中の人妻、離婚したばかりの女性。3人のアンヌは偶然にも同じ情熱的なライフガードに出会う..。
同じ場所で同じ名前の同じ女性が別々の人生を生きているという、このアイデアだけでそそられる。共通するのはライフガードなどの登場人物だけじゃなく、“テント”や“灯台”“雨傘”“携帯電話”などのキーワードも重なる。
そして英語という“言葉の壁”も大きなキーワードの一つだと思う。思ったことを伝えているというよりも、簡単な単語を使い、英会話教室で習うような形式的なやり取り、慣用句が目立つ。それは悪いことではなくて、「そういうコミュニケーションもありだよね」というスタンスが耳に優しかった。
最後にアンヌは僧侶と話し、自分の中にある漠然とした焦燥感とか恐怖感とか、己を知るということについて考える。その会話も少し噛み合っておらず、わかったようなわからないような。でも結局アンヌはアンヌなのだ。
迷ったから探して?とか
私は待つのは嫌いよ?とか
そのペンを私にくれる?とか
借りた傘なくしたのごめんね?とか
少しワガママだけど、どんな人生を生きていてもアンヌはアンヌだった。どんな人生を生きてもきっとイザベル・ユペールはイザベル・ユペールで、一輪の花のように存在するのだと思う。