OASIS

ホーリー・モーターズのOASISのレビュー・感想・評価

ホーリー・モーターズ(2012年製作の映画)
3.8
アポを受けて様々な人物になりきる男オスカーの一日を描いた映画。

レオス・カラックス監督の映画を初めて観た。
分かりにくいかと思いきや、実に映画的で意外に面白かった。
ゴジラの曲と共に飛び出すキャラクターのインパクトが凄すぎて笑う。

長い長いリムジンの後方席から外に飛び出した瞬間に人格が変わったかのようにハツラツと踊りだす彼の姿はかなり大袈裟に見える。
けれども、私たちも普段人前に出る際には何かしらいつもとは違う自分を演じているわけで、押し殺している感情を自分に変わって解放してくれているんだと思った時彼の行動がとても面白く見えてきた。
路上で物乞いする老婆、モーションキャプチャーで激しい動きをするスタントマン風な男、死が間近な老人等バリエーション豊かな人物を演じる彼だが、実の娘と対面した時には最も衰えているように見える事から実は本当の自分を知る事が彼にとっての一番の恐怖であるというように見える。
「本当の自分と向き合うのがお前への罰だ」とある娘へ放った言葉が表すように、お前はいつも自分から逃げているんじゃないか?と今までへらへらと周りに合わせてきた自分という存在を突きつけられたような気もした。
その後に映し出される、アコーディオンを弾きながら行進し躍動する彼の姿を見てなんだか解放されたような気分にもなってしまった。

監督自身も「この映画はSF的だ」と言っているように、彼が演じるキャラクターの行く先がパラレルワールド的に広がっていくとしたら、私たちの人生もまた身の振り様、演じ様によってはかくも美しい世界が広がっていくのかもしれないという希望すら感じる。
しかし、全てを演じ終えた彼がいるべき場所に戻った後、彼を乗せていた運転手が仮面を被った瞬間に「やられた!この女も演じていたんだ」という衝撃を受け、さらに機械と思っていた「彼ら」すら演じていたというのを知った時、せっかく信じかけていたこの世の全てが嘘に満ちているのではという恐怖さえ感じてしまった。
それゆえ、私たちは「演じる事」を辞められないのかもしれない。
そう、人生とは自分のものだけではなく他人さえ取り込んで演じ続ける終わりなき旅である、と。

面白かったが、他の作品もこんな感じだと思うと観るのが怖くて仕方ない、レオス・カラックス。
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