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ブロンソンのninjiroのレビュー・感想・評価

ブロンソン(2008年製作の映画)
3.5
暴力についての映画である。

英国で最も有名な囚人として知られる「チャールズ・ブロンソン」ことマイケル・ピーターソン。
彼は間違っても「最も有名な犯罪者」ではない。
彼の犯した罪は2件のケチな強盗。
その罪状に似合わず、現在63歳の彼はその人生の大半を監獄で過ごし、今も猶その中にある。

彼のその刑期を延ばした要因は、彼自身の持つ他に例を見ない暴力的志向。
投獄され、懲役を科せられても、そこで下される如何なる指示にも従わず、多くは語らずただ圧倒的腕力による瞬間的回答のみが彼のコミュニケーション。
武装した看守達が棍棒を片手に押し寄せようが、彼はただ持てる力を目一杯に載せた重い拳をそのヘルメット目掛けて振るうだけ。
丸腰で、時にバターを塗りたくっただけの全裸で、決して退くことなく堂々とその身体一つを無造作に叩きつけ続ける。
彼が望むのは釈放や脱走による自由ではない。
待遇の改善など望むべくもないことも知っている。
ならば何故そんなことを?
それは彼にも分かるまい。
ただ荒ぶる魂は、最早止まることを許さない。

集団による陰湿なリンチでも、やおらに動く権利すら奪う籠のような懲罰房でも、精神を壊し骨抜きにする為の薬でも。
いくら叩きのめされても、踏みつけられても、屈辱に塗れようとも、誰にも何物にも彼の心を折ることは出来ない。

彼は自らの業により、蹂躙され、奪われ続けていくだけの人生を選び続ける。
その代りに国家は、彼を国家の力により生かし続ける道を選ばざるを得ない。

法の名の下振るわれる暴力に対し不条理な暴力で愚直に対峙する男。
彼の名はブロンソン。

国家はその面子を保つ為、今日も莫大な「維持費」を浪費しながら、罪に見合わぬ犯罪者の命を永く賄い続ける。
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