こたつむり

人魚伝説のこたつむりのレビュー・感想・評価

人魚伝説(1984年製作の映画)
3.8
♪ はかない人魚のように夜が明けたら
  海の中消えてゆく ああ

とても濃厚な作品でした。
端的に言えば、愛する夫を失った女の復讐譚なのですが、見どころが盛り沢山。括目しなければ勿体ないのです。

まず、昭和の匂いが漂ってくる映像。
錆びた水道管から流れる温い水。漂う蚊取り線香の煙。木造家屋と畳の匂い。遠くから聴こえてくるひぐらしの鳴き声。お皿の上には西瓜。あー。日本の夏ですなあ。懐かしすぎて胸が締め付けられます。

水中で撮影した美しさも必見ですね。
海の中は言葉が不要な世界。40年近く前の作品とは思えないくらいに明瞭なのが素敵。主人公が海女さんなのも良いですね。物語の説得力が増しますからね。

また、一部のロケ地は渡鹿野島。
あの“売春島”として悪名高いところです。しかも、全盛期を過ぎた頃の撮影ですから、本で読むのとは違う“生々しさ”がありました。これは歴史的な価値がありますよ。

それと、物語の軸には“原発”の存在。
真っ向から批判する覚悟は“それが正しいのか”という判断を越えて評価したいところ。今では反対派の方が主流ですけどね。当時はどうだったのでしょうか。

あと、全裸での格闘…なんて場面もありました。クローネンバーグ監督の『イースタン・プロミス』もビックリな立ち回り。惜しむべくは“ボカシ”の存在ですね。ポイントはエロじゃないのですから、野暮な修正は施さないでもらいたいものです。

そして何よりも見事なのがクライマックス。
中盤までは叙情的な音楽も相俟って、なかなか“しっとり”とした雰囲気(まさに昭和っぽい湿っぽさ)なのですが、それが真逆の方向に振り切れますからね。まさに“神風”が吹いた瞬間でした。

まあ、そんなわけで。
カルト映画として有名ですが、昭和愛好家としては絶対に見逃せない作品。ちなみに仕上げた池田監督は、にっかつ出身。確実に大人のための物語ですから“口当たりの良さ”を求めたらダメですよ。
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