emily

静かなる叫びのemilyのレビュー・感想・評価

静かなる叫び(2009年製作の映画)
4.2
 モントリオール理工科大学で実際に起きた銃乱射事件をモチーフに描く。重傷を負った女子学生、彼女を助けようとした男子学生、そうして犯人の心情に寄り添い、身体以上に心に大きな傷を負った加害者二人のその後を追う。

 モノクロ映像がまるでドキュメンタリーのような冷たいタッチで、最小限の会話が雪景色の白と交差し、女性と男性の狭間が立体的に浮かび上がる。層になる影や閉鎖的なカメラ、時系列をばらし、事件当日を緊迫感満載で描写しながら突如、被害者男子学生の私的な心情へ切り替わったりする。

 静と動を確信犯的に巧みに操り、常に空気感をまとい、意味深な描写がコントラストの中で生きてくる。横から捉えるカメラ、上からアップから引きになっていくカメラ、独創的で”何か”を常に漂わせる、絶妙なバランス感を保ちながら、美的要素もしっかり盛り込んでいる。純白の中の一点の黒、誰かに寄り添う訳ではなく、あくまでも客観的な事件としての描写の中、それぞれの苦悩がしっかり交差し、それでもカメラはしっかりと未来を捉えている。絶望感の中命は命を繋ぎ、心に負った傷もまた皮肉にも”生”と”性”を感じさせるのだ。

 男女の垣根が両極に転びながら、しっかりとそれを超えた”人間”にまとめられていく。血と血の混合。それぞれの苦悩と男女間の苦悩が少ない描写だからこそしっかり浮き彫りになり、それぞれの心の叫びは観客のそれとも重なり合う。性の括りの檻から逃れられなくしているのは自分自身であること。自分自身で羽ばたく事を拒否していることを改めて思い知らされる。
 
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