emily

R-18文学賞 Vol.2 ジェリー・フィッシュのemilyのレビュー・感想・評価

3.3
 クラスでも浮いた存在の女子高生夕紀は水族館で同級生のカナコに声をかけられ、唇を重ねる。二人はたちまち意気投合し、距離を縮めていく。夕紀は日常への不満、疎外感からカナコの存在は生活のすべてになっていく。一方でカナコは彼氏が出来て、男とセックスをするようになるが、どこか満足できないでいる。

 二人の女子の危うい関係を水の中で揺蕩うクラゲと重ね合わせ、青春期の苛立ちと青さを恋愛の嫉妬のそれと交差させ、絶妙なタッチで描く。二人の距離感は時に少女のかわいさがあり、時に無知からの残酷な態度、自然に傷つき、自然に妄想し、男女間では出せない絶妙な空気感と、二人にしか出せない絶対的な関係を幻想的な水の中のクラゲの映像と交差させる。現実感がありながらどこかファンタジーで、永遠に続いていくようで、それは今だけの瞬間の青であることを常に漂わせている。

 脇を固める実力派の俳優陣もしっかり二人を盛り立てて、特に夕紀の父親を演じる竹中直人のドクターペッパーが印象的だ。危うい空気の中に現実すぎる描写がスパイスとなり、一気に引き戻される。クラゲのように揺蕩うのは彼女たちなのか観客なのか。そこには甘酸っぱい夢のような時間があり、青春期のそれと見事にマッチし、しかしそれは今の二人にしっかりとつながっているところまで描かれていて、夢のままで終わらずちゃんと観客も夢から覚ましてくれる。
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