dm10forever

頭山のdm10foreverのレビュー・感想・評価

頭山(2002年製作の映画)
3.8
【もったいねぇ】

昨日視聴した「年をとった鰐」と同じ山村浩二監督の短編アニメーション。

元々は同名の落語がモチーフということらしいけど…とにかくシュール😅

〜とにかくケチな「けち兵衛」さん。
ケチなだけではなく、道端に落ちているモノでも「勿体ない」となんでも拾って帰ってくるもんだから、家中がゴミの山で溢れかえっている。
ある日、道端に落ちているサクランボに気がついたけち兵衛さん。
「こりゃもったいない」
早速手当たり次第に拾って帰って一食浮かせられたと満足気。
手洗いも早々に早速拾ってきたサクランボをむしゃむしゃと食べ始める。
ふと下に目をやると、そこにはたった今吐き出したサクランボのタネが落ちていた。
「こりやもったいない」
そう思ったけち兵衛さん。
今度はそのタネまでボリボリと食べてしまった。
「はぁ〜美味かった」
とても満足したけち兵衛さん。
あくる日。
なんとけち兵衛さんの頭には桜の木が生えているではありませんか…

今作は落語の演目の中でも「シュール」「オチが難解」として有名な演目である『あたま山』を題材としたアニメーション。

舞台こそ現代となっているが、三味線の音色と講談のような独特の口調にあっという間にその世界に惹き込まれる。

ここに出てくるけち兵衛さんは、時代を問わず、何処か「世捨て人」のような孤独感が漂う。
原作落語では奥さんも居ることにはなっているが、それも根本的には「内向きな人間関係」であって、外の人たちと積極的に関わりを持つような事はなく、何処か排他的な雰囲気が感じられる。

そんなけち兵衛さんの「もったいない」という性格が災いして、期せずして他人の注目を一身に浴びてしまうという皮肉。

自分の頭の上で「花見だ」「水浴びだ」と好き勝手に騒がれる事こそ、他者と距離を置きたいケチ兵衛さんにとっては堪らないことに他ならない。

そして、いよいよ耐えきれなくなったけち兵衛さんは、この世で「一番捨ててはいけないもの」を捨ててしまう…
そう考えると、何とも笑えないオチにも感じてしまう。

シュールにも程があるこのお話が「落語」の演目として語り継がれているという事が何とも興味深い。

もちろん落語家の腕が試されるタイプの演目である事は間違いないと思うんだけど、これを面白おかしいお話にしたり、「死神」のように(え?ここで!?)というオチにしたり、話し方によってもその顔色が変わってしまうという不思議な物語。

それこそ今作のアニメーションのタッチや講談のようなナレーションも相まって、物語自体も何処か滑稽なものにも思えてくる。

さてさて、この物語のけち兵衛さんはついてない人なのか?それとも可愛そうな人なのか?はたまた、しがない滑稽なおじさんなのか?

あえてスパッと切れ味良く落としたのは、その余韻をいかようにも…ということなのかもしれない。

ちょっと不思議な余韻が残る一作。

お後がよろしいようで…🙇
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