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サカサマのパテマのRenのレビュー・感想・評価

サカサマのパテマ(2013年製作の映画)
4.0
メインビジュアルと設定の感じが『バブル』みたいだなと思って初鑑賞。超良かった。ファンタジーかと思いきや、大友克洋的なエッセンスも感じるディストピアSFでした。

ワンアイデアでどう展開させるか、に挑んだ作品として凄く優秀な作品だと思います。思想の違い/お互いの思考・視点の理解出来なさ という人類史で避けては通れないテーマを、重力の違いで視覚的に超ストレートに表現してみせたこと自体が見事に成功していました。
重力の方向が異なるキャラクターが共存することで生まれる緊迫感の玉手箱。空から地下、縦軸の端から端までを目一杯使ったアクションが盛り沢山。メインビジュアルのように抱きつく2人が体重差ぶんの質量しか無くなり、風船のようにふわふわ浮くアクションが最高!

私は特に高所恐怖症というわけではありませんが、「空」が「下」になる(=地面が無くなる)怖さを十二分に感じられ、アトラクションのようにも楽しめました。ちゃんと心臓がひゅんってなる。
「なぜ人によって重力の向きが異なるのか?」に対し、変に科学的な理由付けをしていないのも偉い。ただ「上下が違う」というルールのみを採用することで、不要な矛盾を無くしています。設定が至極シンプル。

完全な秩序と思想で統制されたディストピア。同じ表情で授業を受け、ベルトコンベアで移動するアイガの人々は同じ思想を入れられた大量生産ロボットのよう。
地下世界は一転スチームパンクな世界観で、また別な世紀末感が漂っているのも程よく好奇心をくすぐってきます。

個人的には、1時間が経過した辺りで訪れる某展開以降の、パテマとエイジが2人きりになるシーンで熱がしゅんと冷めてしまったのが残念でした。やはり今作のアクションが好きだったのだなとここで確信。
が、ラストバトルからエンドロールまでで再び盛り返してくれたのでOK!『天空の城ラピュタ』かと思っていたのに『猿の惑星』だったのかよ。
というかそもそも「少年が異世界の少女と手を取り合う」「空への憧れが物語の推進力になっている」辺りがめっちゃラピュタ。



《⚠️以下、ネタバレ有り⚠️》









エイジたちの世界のほうがサカサマだった、という文字通りのどんでん返し。天地返し。
ですがこれ自体が作品に通底する「たった一つの思想を盲信することの危うさ」「自分の見たい/信じたいものこそ世界の全て」というアイガの在り方そのものに則った構成になっています。自分たちが絶対で自分たちが世界。アイガのほうが我々の知っている普通の世界(空が上で地面が下の世界)だ、と観客も思い込まされていた。天晴。
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