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インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌のchunkymonkeyのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

売れるか売れないかなんて関係ない。全ての「アーティスト」を名乗る者たちを讃える映画です。ちょっと難しい映画だけど、とにかく猫がかわいいからまあいいか。猫が気になって仕方がなかったら、やっぱり猫が全てを教えてくれた映画だった。

売れないフォークシンガーのルーウィン。他人の家のソファーを転々としながら、なんとか生活ができて...いない。冒頭、ステージで歌う歌は特に悪いところもないが光るものもない、そしてどこか自信なさげ。そんな彼の何をやってもうまくいかない1週間が始まる(本当に1週間なのかは諸説あり。もっと長い期間説、タイムループ説、はたまたお前はすでに死んでいる説まで!)。

何かを見失ってすごくもがいているのはよくわかる。でもそれが何なのか掴めず、少し難解な映画だなあと思いつつ猫に癒される。かつての歌のパートナーのマイクを失ったことがきっかけではありそう。でもなんかそれだけではしっくりこない。

最後に猫が全て教えてくれます。冒頭、ゴーフェイン家に泊まらせてもらって、朝出かけるときにドアから猫が抜けだしてしまう。猫とともに締め出され、一緒に地下鉄に乗って今度はジーンの家へ。そこでまた猫が逃げ出してしまいます。しばらくして、偶然猫発見、やったぜ!と思いきや、後に違う猫であったことが判明します。そして、1週間が経とうかというとき、再びゴーフェイン家を訪れたルーウィンは本物の猫と再会し、その名前を初めて知り感激します。

ここでルーウィンが何を見失ってもがいていたのかがわかるんよ。一つ目は、名前というのはアイデンティティそのものであり、「自分が何者なのか」を見失っていたルーウィンは、猫の名前を知ったこの瞬間自分が何者かを理解する。もう一つは本物のフォーク。他人の音楽を散々バカにするが、じゃあ一体何が本物のフォークなのかルーウィンは見失っていた。その象徴が本物の猫に逃げられ偽物を掴んでしまうエピソードです。そしてついに本物の猫に再会したとき、自分の中にある本物のフォークを見出します。

本物には猫以外にもヒントがあります。ジーンの妊娠した子供は本物のルーウィンの子供かわかりません。間もなく堕胎することが確認され、これも「本物のフォークが何か」という悩みが終わったことを示しています。

ジーンが手配したステージに出るか決めかねていたルーウィンですが猫と再会した翌日、1週間前と同じステージに立ち、同じ歌を歌います。しかし、もう今までの繰り返しではありません。そのことは新時代の到来を告げるボブ・ディランの登場に暗示されます。いや、でもルーウィンはこれからも変わらず売れないままで、ヤジを飛ばして殴られる生活も変わらないでしょう。しかし今までとは違い、その歌には自信と誇りがみなぎっていました。ルーウィン自身の中にありながら(インサイド・ルーウィン・デイヴィス)、パートナーを亡くし見失っていたものを再び掴んだ彼が歌う歌、それが「名もなき男の歌」。沁みました。

※ティモシー・シャラメ主演のボブ・ディランの伝記は、現場にメイク・衣装関係者を多数要するためコロナ渦では撮影不可能とのことで、残念ですが一旦お蔵入りだそうです。
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