亘

あなたを抱きしめる日までの亘のレビュー・感想・評価

あなたを抱きしめる日まで(2013年製作の映画)
3.9
ジャーナリスト、マーティンはある日新聞の社会欄の記事を書かないかと誘われる。乗り気ではなかった彼は当事者の女性フェロニアに会って考えが変わる。修道院が彼女の息子の情報を50年間隠し通しているようなのだ。

実在のジャーナリスト、マーティン・シックススミスの著書を基にした作品。サスペンスの様相を呈した雰囲気で展開が読めない。息子アンソニーの行方が分かった後でも彼の死の事実や彼の足取りなど想定外な事実が次々に見つかるし最後の修道女たちとの対決も見物。まさに「事実は小説よりも奇なり」という作品。

フェロニアは低学歴で裕福でもない、でも口数が減らない世話好きなそこら辺にいそうなおばさん。一方のマーティンは高学歴で裕福、不愛想で皮肉っぽいエリート。本来交わらないような2人がイギリスからアイルランド、アメリカへと真実を求めて飛び回る。

ともすれば感情的になるフェロニアを当初マーティンは軽蔑していた。しかもフェロニアはキリスト教徒だけどマーティンは無神論者。それでも息子アンソニーの行方を追って結託し、いつしか親子のようになる。凸凹コンビだからこそ成し遂げられたことも多い気がする。

アンソニーの行方は中盤に意外にもあっさり分かってしまう。でもその後も次々新事実が明らかになるし見ていて飽きない。さらに終盤には修道院で修道女と対決。印象深いのはフェロニアが事件の主犯シスター・ヒルデガートを赦すシーン。フェロニアはシスターからすれば罪を犯し穢れた人物。そのフェロニアが"邪悪な"シスターに対して赦しを与えるのはそれまでの立場が逆転したようで清々しかった。

マーティンは一度政府の職を追われ低迷していたけどこの事件についての執筆で光が見えたし、フェロニアは謎が解けてすっきりした様子。楽しげに車で走り去るラストシーンは将来が開ける兆しを感じさせた。

印象に残ったシーン:空港でフェロニアが話し続けるシーン。2人がアンソニーの恋人ピートの家を訪ねるシーン。終盤2人がシスター・ヒルデガートと対決するシーン。

印象に残ったセリフ:「成功の道で会う人には親切に。人生が下り坂の時また会うから」;フェロニアが珍しくマーティンを納得させたセリフ。まさにマーティンの捜査を表してる。
「探求の終りに出発点に到着し、その場所を知る」;元はT.S.エリオットの"We shall not cease from exploration, and the end of all of our exploring will be to arrive where we started and know the place for the first time"です。

余談
今作の基になったのはマーティン・シックススミスの著書"The Lost Child of Philomena Lee"です。
今作に出てきたような母と子を預かる修道院はアイルランドには他にもあったようです。
亘