みーちゃん

ノスタルジアのみーちゃんのレビュー・感想・評価

ノスタルジア(1983年製作の映画)
5.0
アンドレイ・タルコフスキー監督。抽象的な映像美の巨匠。映像の詩人。まさしく、なので感じたままレビューしたいと思います。

オープニングは原風景のロングショット。人と犬が写り込んでいるけれど何も起こらないから、これ写真?と思いきや、犬が微妙に動き、長回しだったの⁈と驚く。まるで絵画がゆっくり動き出したように幻想的。

そして一台の車のエンジン音が、だんだん近づいてきてフレームイン。目の前を走り去ってフレームアウト。からの再びイン!ここがとても良い。車が映っていない間も見えない車を頭の中で追っているから、曲がり道をターンして再度フレームインした際に、目が釘付けになる。まるで自分の前に停車したような気持ちになる。ビシッと心の的を捉えられ、焦点が合い、同期する。

雨音の中、ホテルの寝室にシェパード犬が入ってくるシーンも忘れられない。当たり前のようにすっと入ってきて、ベッドの脇に寝そべり、アンドレイ・ゴルチャコフが頭を撫でる。まだ何も起きていないのに、まるで自分の中に入り込まれたように心が動かされ、なぜか涙が滲んでくる。

設定もいい。自ら命を絶ったある作曲家の軌跡を追う取材の旅。このシチュエーションがあるからこそ、自分の人生を見つめるという行為が意味を持ち、そこから生まれる葛藤が何層にも重なり深い感慨を生む。

転機はドメニコが暮らす廃屋での出来事。結果的に、この後の行動に直接的な影響をもたらすことになるのだが、このシークエンスは抑制されつつ凄いインパクトだ。だから何が起きても受け入れる事ができる。

温泉を渡るシーンは神秘的。蝋燭の細く揺れる炎を私も一緒に抱きしめていた。そして迎えるラストも、まさかのロングショット&長回し。ただしオープニングのそれとは全く違い、強烈に脳裏に焼きつく。

もう挙げ出したらキリがない。とにかく映し出される色彩のトーンと、自分の心のグラデーションに境界線が無くなるという体験をした。

物語の背景やタルコフスキーの当時の状況、宗教的な意味などを研究すれば、更に楽しめると思うけれど、それによってハードルが上がるなら勿体無い。難しいことは抜きにして、自分が何をどう感じるか、感性を解き放って自由に観ればいいと思う。私はそうする。✨