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嗤う分身のtakのネタバレレビュー・内容・結末

嗤う分身(2013年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

ドストエフスキーの原作を映画化した英国製スリラー。舞台となる時代も場所も特定できない風変わりな世界が展開する不思議な映画だ。主人公サイモンは、ガチガチに管理された会社で黙々と仕事をこなす地味な男。楽しみは密かに憧れている女性ハナの姿を望遠鏡で見つめること。ハナがダストシュートに捨てた絵を密かに持ち帰るストーカーまがいな行動もとるが、彼女に声をかけるのすらままならない。だがハナの誰にも知られることのない一面を自分だけは知っている。そんなプラトニックな人物だ。ある日、会社に同じ容姿をしたジェームズが現れる。性格は正反対で、要領もよく上司にすぐに認められていく。その一方でサイモンは立場を失っていき、愛しのハナまでもがジェームズに思いを寄せ始めた。思うがままのジェームズはサイモンに行動を強要するようになり、ついにサイモンはジェームズに対抗しようと行動に出る・・・。

 同じ容姿で正反対の二人。ヒロインであるハナがコピー(複写)係であること。会社のIDカード失ったサイモンが何度も繰り返す守衛とのやりとりや、オンボロエレベーターに乗ったときの反応違い。常にこの映画が示すのは"対比"。自分と同じ人間がもうひとり存在する"ドッペルゲンガー"をスリリングな要素として描きながら、この映画は冴えない主人公サイモンが"こうありたい自分"としてのジェームズを乗り越えていこうとする成長物語になっている。相手を傷つけると自分も傷ついていることに気づいたサイモンが挑んだ行動がこの映画のクライマックスなのだが、それは乗り越えるべき自分をまさに殺そうとすること。結果としてサイモンは自分を取り戻す。しかも前よりも少しだけ積極的である自分を。前編暗い画面で陰気な映画だが、サイモンを見つめるハナの笑顔ですべてが救われた気持ちにさせてくれる。

 特筆すべきは国籍不明な"管理社会"の描かれ方。僕ら世代だとテリー・ギリアム監督の「未来世紀ブラジル」やジョージ・オーウェル原作の「1984」を思い浮かべるし、独裁者がいる管理社会へのクーデターを描いた「Vフォー・ベンデッタ」もある。「1984」のような体制の怖さこそ描かれないが、ジェームズの登場でサイモンが社会から疎ましく思われる存在として孤立し、追い詰められていく怖さと重なる。これは自分への内なる革命の物語。そう思うとラストのミア・ワシコウスカの笑顔に、青春映画を見終わった後のような気持ちにさせられる。ただ全編に漂う暗い雰囲気は、好き嫌いがハッキリするところだろう。同じドッペルゲンガーを描いた作品である「複製された男」よりも好き。突然ニッポンの昭和歌謡(ブルーコメッツ!)が流れるのには驚いた。
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