乙郎さん

レッド・ファミリーの乙郎さんのネタバレレビュー・内容・結末

レッド・ファミリー(2013年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

2014/12/22@シネマパレット

 キム・ギドク監督が脚本、編集、プロデューサーを担当した作品。
 監督は別の方に任せていることもあってか、通常のキム・ギドクでは考えられないくらい真っ当なエンターテイメントの枠におさまっている。
 ただ、この「枠」の存在が、ある種の異形さを際立たせていることも事実。そして、それが魅力になっている。

 韓国映画の中で南北問題が出てくると、あまりなじみのない問題ということもあって、それが映画の中でどういう風にあつかっていいんだろうとわからなくなることもあった。日本のメディアは北朝鮮に関してトンデモナク独裁的な国だというような報道をするし。
 そして、この映画に描かれている北朝鮮像が正しいのかはわからない。けれども、ちょっと考えたのは、この映画は決して南北問題に特化したものではなく、ある種のシステムについて描いたものではないかということ。

 社会というものを存続していくために守らなくてはいけないルールがあって、それが集まって「システム」が構築される。それを守るためには人間性を捨て非情にならなくてはいけない部分もある。
 この映画の最初のほうでは、人間的であるがゆえの一種の厄介さみたいなものが描かれるんですね。エゴで行動するが故に借金を作ったり諍いを起こしたり、という。
 一方で、北朝鮮工作員たちの統制のとれた組織に、ちょっとだけ憧れを感じたのも事実。それは、班長(キム・ユミ)の凛とした佇まいがあってのことかもしれない。ソフト化されたとき、誰が吹き替えになるか今から楽しみ。榊原良子か田中敦子か小山茉美か。
 あと、時折入る工作員活動としての殺人術とか、間違いなくアクション映画的見せ場も多かった。それと、こういった活動をしている人がひょっとしたら壁一枚隔てているかもしれないと思わせられるあたり、映画的な面白さを増している。
 しかし、人間を殺して組織を存続させること、それが果たして正しいのか。そういった問題が浮かび上がってくる。
 見せ場だったのは隣の家族との会食の場面の議論。お互いがお互いに耳を傾けるべきだと主張した娘(パク・ソヨン)。このシーンで若い二人を映すカットを挿入したあたり、若い世代への期待が観てとれる。
 ただ、この会話劇の部分、録音されるテープが映されるタイミングが見事で、それがこれからの惨劇を暗示させる。
 結果的に、主人公たちは人間的な情により足元を救われて、自滅する結果になるわけだけれども、この映画の最後に映る人物が何を主張していたかを考えるとかなりぐっとくる。その人物はひょっとすると心霊なのかもしれないが。

 正直に言えば、観る前はかなり陰惨な印象があったが、実のところ広く訴求する力を持ったエンターテイメント作品だと思います。こういったかたちで社会問題を扱える土壌うらやましや。
乙郎さん

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