HicK

ウォルト・ディズニーの約束のHicKのレビュー・感想・評価

4.5
《原作者vs映画製作者》
〜思い出を守る孤独な戦い〜

【はじめに】
ちょうどYahooレビューから今作のレビューをこっちに引越しさせようと思った時に飛び込んできた「セクシー田中さん」の悲報。今作や三谷幸喜の「ラヂオの時間」みたいな出来事って業界では沢山あるんだなと思った。って考えると「ドラゴンボール evolution」に耐えた鳥山明の忍耐力ってすごい。レビューと関係ないけど。ご冥福をお祈りします。

【大幅な脚色をするD社】
「メリー・ポピンズ」の原作者Mrs.トラヴァースと、その映画化の権利を得たいウォルト・ディズニーの話。今作はディズニー社の讃歌ではなく、むしろ自虐。原作を大衆娯楽に昇華させるため、毎回大幅な脚色を加えるウォルト・ディズニーの特色が問題に。このスタンスが本作では傲慢に感じ、Mrs.トラヴァースの拒絶し続けた姿に共感できた。彼女に感情移入するとウォルトたちが「ちょっと、おかしい人たち」に見えてくる。

ディズニー社は物語を大衆に届け楽しませる力は一流だが、原作の原型を人々の頭から消し去ってしまう力も一流。序盤でMrs.トラヴァースが「可愛そうなA.A.ミルン…」と、同じ境遇で「くまのプーさん」が手元から離れてしまった作家を哀れむ姿があり、有名な話だったので「確かに」と同情。

【Mr.バンクス】
「メリー・ポピンズ」の原作背景は衝撃だった。実写版では厳格で子供に興味がないMr.バンクス。一方、原作では優しい子供思いの実父を投影したキャラクターだった。彼女が一番尊敬していた人物の性格を変えられては、そりゃ怒るだろう。誰にも触られたくない思い出に無理やり手を突っ込まれてかき回されてる感じ。よく伝わってきた。

【メリー・ポピンズ】
同作の主役であるメリー・ポピンズ自体も衝撃の真実が。原作では厳しいキャラクターで実の叔母をモチーフにしていた。回想場面で、無愛想な叔母があの傘を持ち、あのカバンを持つ姿を見て「まさか!?」と。そして聞き覚えのあるセリフの数々が彼女の口から出てくる。ショッキングな真実の姿だった。

【Mr.バンクスを救え】
Mr.バンクスの結末を巡り、「ヒゲあり」の厳格な父への皮肉を出したいウォルトと、「ヒゲなし」の優しい父を悪者にしたくないMrs.トラヴァース。そこにポピンズの"真の目的"が明かされ、原題通りの『Mr.バンクスを救え』に沿った展開に。試写会シーンの「♪凧を飛ばそう」では、Mrs.トラヴァース同様に胸がいっぱいになり涙。原作はこういう話だったんだぁとしみじみ。

【総括】
頑固なMrs.トラヴァースとその裏にある切なくも温かい背景。そのギャップに惹かれ、「だからこそ頑固」と納得・同情してしまう物語だった。作品として脚色はあれど、世の中の「原作者たち」の代弁をするようなテーマを、「改変の王者:ディズニー」自ら映画化するとこに意義があったんじゃないかなと思う。

なによりエマ・トンプソンの素晴らしい演技とウォルトに激似のトム・ハンクスは激推しできる。
HicK

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