ふき

ダリオ・アルジェントのドラキュラのふきのネタバレレビュー・内容・結末

1.2

このレビューはネタバレを含みます

ブラム・ストーカー氏の『吸血鬼ドラキュラ』を原作とする作品。
作品自体の評価は「失笑しかないクソ映画」である。一般の映画ファンは当然、クソ映画マイスターも、ドラキュラファンも見なくていい。ドラキュラ作品として新しい視点はない。

ここまでで回れ右をできた方は、以下の長い感想に触れなくてもよいです。

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この感想は、本作が芸術的ホラー映画の傑作である『サスペリア』を製作したダリオ・アルジェント氏の監督作品であることを承知の上でのものだ。

カマキリや出血描写を始めとするCGが軒並みショボい、汽車から降りるジョナサンのシーンのレイヤー構造が不自然(煙が柱や人物の手前に来ないなど)、ドラキュラ城への道のりが不気味さのないただの森などなど、映像的に気になる点は数多い。
だがそれらは得点に影響しない。この映画を駄作たらしめているのは、全編に渡るもっと「普通のダメさ」だ。

まず絵的な細部がダメだ。カマキリに首を切断されたはずの死体に、後のシーンで首がついているとか、広がったはずのCG血溜まりが消えているとか、噴き出す血とメイクの血の色合いの差とか、ぱっと見ておかしいところが多い。そういうところが目に付いていると、「杯から血を飲んだのに、口の端しか血で汚れないのか……」と普段はスルーするようなところまで気になってしまう。
映像の素材や編集も質が悪い。ミーナが首筋の髪をかきあげ、そこにドラキュラが覆いかかるのに、間の会話中に髪が戻ってしまっている。なんでそのテイクを使った? 「吸血鬼は鏡に映らない」との設定を描くシークエンスも、注目すべき点が不明なままジョナサンの驚く表情ばかり映すし、その後ジョナサンが覗き込む鏡もボケボケで意図不明だ。吸血鬼になりかけた演出なんだろうけど。最たるものはドラキュラにトドメを刺した弾丸だ。特に説明なく鋳造してたので銀かと思いきや、「ニンニク弾」。オリジナリティを盛り込んだのだろうが、説明不足すぎて蛇足としか思えない。
映画としてのルックス、見た目も違和感がある。背景と人物が浮いていて、場面によっては人物と人物さえ分離して見える。全編をオールグリーンバックで撮影したんじゃないか、と疑ったほどだ。3D化の影響だろうか。これは地味だが、ボディブローのように効いてくる(ちなみにイタリア語版を取り寄せて3D版を視聴したが、特に効果はなかった)。
セットはそれなりによくできているのだが、どうも狭く見えてしまう。撮影の仕方やアングルが悪いので、映っているところ以外の世界が存在しないような見せ方になってしまっているのだ。
人物の演出も残念だ。トーマス・クレッチマン氏のドラキュラが初めて人間として登場するシーン、クリストファー・リー氏のドラキュラを参考にしたのだろうが、迫力がなさすぎる。ルドガー・ハウアー氏のヴァン・ヘルシングの初登場も同様で、「村一番のボンクラじじい」としか思えない姿だ。ドラキュラ作品最高のキャラである二人の登場がこの演出とは、本気で理解に苦しむ。
また、キャラクターの造形にも新しさがない。フランシス・フォード・コッポラ監督の『ドラキュラ』のイメージをベースにしたのか、不幸なことに、ジョナサン役のウナクス・ウガルデ氏がキアヌ・リーブス氏の劣化コピーにしか見えない。ヴァン・ヘルシングも同様だ。衣装は素晴らしいのに、なぜそんなことをするのか。

そんな映像の出来と同じくらい、脚本も酷い。他のドラキュラ映画と同様、原作を映画用に圧縮するためキャラと展開が整理されているのだが、その圧縮率が凄まじい。ジョナサンは序盤で実質退場、ルーシーは体調が悪くなったと思ったら死亡、ヴァン・ヘルシングはドラキュラ勢力を黙々と殺すだけ。
その代わりに追加された要素は、ダリオ・アルジェント的スプラッター演出をするためのオリジナル人物と展開なのだが……。大勢のオリジナル人物は、この作品ならではの設定を生み出しているものの、物語として結実する前に血を吹き出して死んでしまう。
そのため、「ドラキュラとスプラッターの幸福な結婚」とは感んじられず、「ドラキュラとダリオ・アルジェント双方のいいところの相殺」になってしまっている。

ではドラキュラとしてはどうか。本作のドラキュラは、序盤はクリストファー・リー氏の、終盤はゲイリー・オールドマン氏のドラキュラを組み合わせた人物像で、その間をダリオ・アルジェント的スプラッター行為で埋めている。つまり、序盤はバタバタアクション、中盤はオリジナル人物の殺戮、終盤は純愛ロマンスで、人物としての一貫性がないし、特に目新しいところはない。

上記の点からこの映画は、ほぼ全てのポイントで褒めるべき点がない。

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少し詳しい方なら、この作品が「今から見ればチープにも見える往年のドラキュラ映画」そのものをモチーフにしていることは分かるだろう。そうでなくても、低予算であることは明白だ。
しかし「だから低品質で当然」とはならない。
昔のホラー映画という点では、ベラ・ルゴシ氏の『魔人ドラキュラ』やクリストファー・リー氏の『吸血鬼ドラキュラ』を見て欲しい。前者は質実な役者たちと巧みな脚本において、後者はパワフルかつスピーディな演出において、現在の水準でも素晴らしい(CG全盛期の頃に私自身ドハマりしたほど)。
「低予算=低品質」が成立しないことなど、過去の低予算映画の名作群を見れば明らかだ。
かようにこの作品は、現在の水準からしても過去の水準からしても、「ドラキュラの名を借りた低予算低品質粗悪乱造モノの一つ」、または「クソ映画」と言わざるを得ない。

しかし、ウナクス・ウガルデ氏を始めとする俳優の演技、セットや衣裳の素晴らしさに対して、〇・二点を加算したい。

……ところで、そこそこクソ映画を見てきた私ではあるが、「メイキングがクソ品質」というのは初めて見た。DVDを購入した方は、是非メイキングまで見て欲しい。
ふき

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