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シンプル・シモンのしゃにむのレビュー・感想・評価

シンプル・シモン(2010年製作の映画)
4.2
「失敗が成功を生むのもバランスの法則」

ドラム缶型の宇宙船にこもって宇宙をのんびりと漂いたくなる素敵な作品でした。

前々から気になっていた作品で脳筋映画中毒に終止符を打つために鑑賞しました。特別な病を持つ弟と弟思いの優しい兄という組み合わせはレインマンを彷彿させます。こちらは弟君がアクティブな印象。シモンなりの兄への愛情表現が可笑しくて微笑ましくてほっこりします。時たま映る宇宙のイメージとカラフルな色彩に視覚的にも楽しい。観終わって愛おしく感じる幸福感のおまけつきです。

アスペルガー症候群の青年シモンの人生最大のスローガンは「バランス」です。時間や分量など正確な数字が彼には不可欠です。ルーティンは絶対に不変です。決まった時間通りに事が進まなければ心に混乱が生じて絶望的に取り乱します。それ故にスケジュールを強行的に遵守して周りの人から奇妙な目で見られることもあります。シャワーは使用中でも割り込み、曜日ごとに決まったディナーのメニュー通りでなければ動揺します。変わらないことこそシモンの「当たり前」でした。

バランスが崩れるとシモンはドラム缶の宇宙船に引きこもります。彼の頭の中には大宇宙が広がります。ドラム缶は宇宙船です。惑星の周りをドーナツみたいな軌道を描いて宇宙船で漂います。軌道を好みます。何故なら永久的に軌道は円を描き続けるからです。軌道は予定不調和のない完璧な円だから思い描くことでシモンは心のバランスを保ちます。

両親と上手くいかなくて大好きな兄サムとその彼女のアパートに同居します。肉親の兄はシモンのペースに寛容的ですが彼女にとっては受け入れ難いペースでした。とある事件を機に彼女はサムの元を出て行ってしまいます。レインマンに似たシーンがありましたね。これに動揺したのは意外にもシモン。彼曰く兄に彼女がいないと自分のバランスも崩れてしまうとか。というわけで選りすぐりの13項目のチェックリストを作成して、兄の完璧な恋人を見つける作戦をひとり決行するのでした。自分のバランス生活のために。これはシモンなりの兄への愛の形です。

型にはまりたいシモンに対して兄のサムは型に囚われない考え方をします。恋愛は方程式のようにシンプルな答えは得られない。自分に似た子を探していても結局惚れるのは想像もつかないようなタイプの子なんだと。シモンはこれを間に受けてサムと真逆のタイプの女性を探し出します。健気(?)ですね。変わらないことを第一に最優先してきたシモンに訪れた最大の変化だと思います。すぐに今まで固執してきた第一の最優先事項をころりと新たなものに変えてしまうなんて…兄への愛情の深さを思い知りました。他にも、兄のデートのプランの為に大好きなSF映画をやめてラブコメ映画を観たり。デートのセッティングは超ロマンチックです。丘の上の豪華なディナー、バラの花束、ムーディな音楽の生演奏…シモン頑張りましたね。だけど兄貴を拉致して袋詰めにするのはダメですよ…笑

シモンの第一信条バランスの法則は様々な経験で崩れてしまいます。ドラム缶の宇宙船で着地するような大きな変化です。するとシモンの世界は無秩序なおぞましいものになるはずですが、彼は予定不調和に順応します。決まり切ったディナーのメニューを、映画の趣味を、欠かさずしていたドラムの練習を、寄り添うくらい好きだった宇宙観を、変えてシモンの新しいバランスが生まれました。失敗したバランスから新たなバランス。変われない性分はやがて嘘になります。シモンも人も変われます。もしかしたら自分も変われるかな…なんて前向きなことを素直に考えた作品でした。とてもオススメです( ´艸`)
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