「ファイ 悪魔に育てられた少年」@シネマート新宿
幼き頃5人の強盗殺人集団の男に誘拐され各人の犯罪スキルを教え込まれて育った少年ファイを描いた物語。アクションと容赦なき展開が融合し加速しながら過酷な現実に少年が直面していく。根深い「男(父権)世界」を面白い形で表現した作品でした。
5人の父親たちに理想の兵器、理想の悪魔の「個」を刻印されていくファイ。他者の欲望という息を吹き込まれて膨らむ風船であるわけですが、自らが風船を割らなければ(父親越え)自分と世界を同一化する事は出来ない。ソクテの命令によってファイが犯罪に手を染めてからその事に気付き動き出す物語のうねりには固唾を呑み事の成り行きを見守るしかなくなります。
集団のリーダーでもあり善悪の思考を司るソクテ(キム・ユンソク)という悪魔。彼は自身の中にいる怪物(悪夢)と同一化する事によって悪の種を発芽させ肥大し本能の赴くまま奪い殺戮を繰り返す。そして自分勝手な思い込みで「裁く者」という父権の権化を振り翳し息子ファイの現実をも歪めてしまう厄介極まりない男。人間に内在する根源的な悪の象徴。
ファイはソクテという固定観念(ファイも見る悪夢。その事でソクテは己の悪を継承しようとします。)を浄化することで本当の自分に還り真実世界で生きることを選択しなければならない。
父親の中には愛情を持って接する一概に悪人と決めつけられない者もいて、ファイが人格形成の段階で大きく歪まなかったのはこの人達や育ての母親がいたからでしょう。社会を恨んでいた男達が子供を育てる事によって愛を考えたり、ファイの側は父性を拒みつつ深層では父性を憧憬していたりもする。善悪くっきりと別れてたり人間そんなに簡単に分り易いもんではない事がメッセージになっています。断片的な事柄から徐々に相関図や人の暗部が見えやりきれない運命の悪戯に翻弄させる重厚活劇は見応え充分!
*エンディングロールにファイが描いた"理想の家族像"のイラストにはジ〜ンとくるものあり。