ageless505

ゴーン・ガールのageless505のネタバレレビュー・内容・結末

ゴーン・ガール(2014年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

「物語には癒しがある」と思いたい派にはなかなか辛い作品でした。

「結婚前には両目を大きく開いて見よ。結婚してからは片目を閉じよ。」
という言葉ありますよね(トーマス・フラーという17世紀英国の神学・歴史者の言葉らしいです、出典の書名不明)。これ既婚者ならまず100%真理と思える警句かと思います。
で、エイミーは結婚前のニックの言葉や結婚生活に抱いていた理想に対して常軌を逸した執着があって、結婚後に降りかかる様々な現実に夫婦二人してぼちぼちと折り合っていく(いかざるをえない)ような関係構築ができなかった(する気が無かった)。エイミーは結婚後も両目を開いたままだった、もしろ両目を開いていても本当に見るべきものを見なかった・・・。ニックはニックで未成年と浮気するようなクソ野郎だし・・・。

いろいろ気になってトーマス・フラーさんのこと調べたら、他にもこんな警句がありました。
「他人を許すことのできない人は、自分自身が渡らなければならない橋を壊しているようなものである。」
「逆境に堪えられる者は多いが、軽蔑に堪えられる者は少ない。」
「嘘には足がない。だがスキャンダルは翼を持っている。」
【 http://meigen-ijin.com/thomasfuller/ 】
まるで「ゴーン・ガール」のこと書いてるみたいな、エイミーの姿やニックの状況、二人を取り巻く環境に発した言葉に思えて気味悪い・・・
エイミー自身の著述家としての成功体験は、エイミーの自己顕示欲と承認欲求を肥大させる方向に直進してしまった。夫婦間の不協和音は全て夫に原因がある、世論を味方につけて夫を陥れることで、夫が苦悩することで、自分は救われたい。

それでも「物語には癒しがある」と思いたいので、<だから結婚は怖い>とか<だから女は怖い>とか<だから甲斐性がない男はクソだ>という着地点ではなく、<結婚を契機に夫婦関係がこんなことになる状況はありうる>もっと言えば<こんなことになることを助長する環境が知らぬ間に整ってしまっている>という落とし所をもうけて七割ほど満足しています。
満足できない三割については、エイミーは失踪するさい<妊娠を偽装>し、ニックの元へ現れてからはニックに了解を得ずに<人工授精で妊娠>していますね。 <妊娠>から命が誕生する物語性を奪っている、という点で、エイミーは救い難いサイコパスだと断じるしかないか、と。

またフィンチャー作品には殺人者が目立ちますが、本作は「セブン」と「ゾディアック」と「ドラゴン・タトゥーの女」を足して0をかけて「ゴーン・ガール」を足した作品だと思います(!)。つまり前作とは殺人のありようが全く異なる。自分を殺した(死を偽装した)ことも元彼ニールを殺したことも、そうすることで自分に利益がある世論を導ける、という自己顕示欲と承認欲求ありきの殺人。その意味で全く新しいフィンチャー世界(ギリアン・フリン作品を借りた)かなと思います。
好きだけど好きじゃない作品、好きじゃないけど好きな作品。

なおトーマス・フラーにこんな警句も。
『男性が持っている最良の財産、あるいは最悪の財産、それはいずれにせよ自分の妻ということになる。』
ageless505

ageless505