おけい

グレート・ビューティー/追憶のローマのおけいのレビュー・感想・評価

4.3
見終わった後、時間が経つにつれ良さをじわじわと感じる映画がたまにある。本作はだいぶ前に観賞したが、今がまさにその時だと感じている。

65歳の主人公ジェップ(トニセルヴィッロ)は40年前に一発当てた小説で成功した、いわゆるセレブだ。しかしそれ以来一度も小説を書いていない。毎夜セレブ達の集まるパーティに参加し俗物的な生活を送っている。

初恋の人が忘れられず独身貴族を貫いてきた彼は、彼女の訃報を聞きいてから改めて人生を考えるようになる。

酸いも甘いも知り、一見人生豊かに生きてきたかに見えるこの男。大人の余裕さえ感じるこの老紳士の佇まいから、そこはかとない虚しさを最初から感じたのは私だけではないはずだ。

監督のパオロソレンティーノは私と同じ歳だと知った時、正直驚愕した。この年齢でこんな映画を撮れるものかと。

めくるめくイタリア、ローマの美しい情景と主人公目線の画の構図が醸し出す圧倒的な映像美。これこそ総合芸術なんだと思い知る。

彼が人生を考えるきっかけになったのは初恋の人の死だけではない。40を過ぎてもヌードダンサーをしているラモーナ(サブリナフェリッリ)との出会い、根っこは大事だと言う老修道女との出会いも大きいものだったはず。人は必ず死ぬ。死と一瞬の美の儚さはあっけなく訪れる。

それでも生きていく。

とどのつまり、ただのトリックだ。そう、ただのトリックなのだ。(ジェップの語りより)
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