サマセット7

ジョン・ウィックのサマセット7のレビュー・感想・評価

ジョン・ウィック(2014年製作の映画)
4.1
監督はシリーズ通じてスタント会社87elevenのチャド・スタエルスキ。
今作は、クレジットはないが、同社のデヴィッド・リーチとの共同監督。
主演兼製作総指揮は、「スピード」「マトリックス」のキアヌ・リーブス。

亡き妻の形見の犬と共に独り静かに暮らす男ジョン・ウィック(キアヌ)。
ある日、ジョンの愛車に目をつけたロシアンマフィアのボスのドラ息子が、ジョンの態度に因縁をつけ、部下を率いてジョンを襲撃し、愛犬を殺し、愛車を奪ってしまう。
しかし、ジョンは闇社会では有名な伝説的な殺し屋だった!!
そしてマフィアを巻き込んだ壮絶な復讐劇が始まる…!!

94年スピード、99年マトリックスと、アクション映画の歴史を更新してきたキアヌ・リーブスが、マトリックスで自らのスタントマンを務めたチャド・スタエルスキを監督に起用。
再びアクション映画の新たな地平を切り開いた傑作。
世界的な大ヒットを記録して、シリーズ化された。
対人近接戦闘による殺し合いアクションに特化した極まったジャンルムービーだが、特にほぼキアヌ本人が自ら演じた本格的かつ美麗なアクションについて評価が高い。

今作の魅力は、シンプルかつぶっ飛んだ復讐劇によるカタルシス、ジョン・ウィックの凄みを煽りまくる外連味溢れるセリフ群、キアヌによる本格的な銃と格闘をミックスした美麗な超絶アクション、殺し屋稼業のコミック的世界観の面白さ、同じくキアヌのカッコよさを高めることに特化したアートデザインにある。

一言で言うとこうなる。
ジョン・ウィック、カッコ良過ぎいい!!!!

今作のテーマは、キアヌのカッコいいアクションを描くことと、「理不尽な目に合わせた相手に仕返しのカウンターパンチを叩き込むことのカタルシス」にあろう。
まさに近年流行りの返り討ちアクションものというジャンルそのもののテーマであろう。
人は誰しも本能的に、自分に危害を加えるものを破壊してやりたいという欲求を持っている。
今作は、その欲求を映画というフィクションの中に投影して満たすことに特化した作品である。
破壊願望の充足という意味では怪獣映画と通じるものがある。

今作の全ては、返り討ちカタルシスの形成のために配置されている。
主人公の苦難と悲痛による観客との共感の形成。
主人公を上げに上げ、敵が主人公の正体を知って恐れ慄き、慌てふためくことによる、観客の承認欲求の充足。
そして、流麗かつ本格的、リアルとフィクションのギリギリのバランスをとったアクションの、映画的快楽。
憎き相手に鉄槌が下される、爽快感。

犬、という犠牲の対象がまず絶妙だ。
何なら人間が犠牲になった時以上に、観客は、このドグサレがあああ!という怒りに飲み込まれざるを得ない。

伝説的な主人公の強さを煽りまくる台詞の数々は、ゾクゾクするほど魅惑的だ。
殺し屋ホテルの皆さんの、ジョンに対する溢れんばかりのリスペクト!!
「またお目にかかれて、光栄です…。」
マフィアのボスが、息子が手を出してはいけない奴に手を出してしまったことを知った時のリアクション!!
ボスは裏稼業の修理屋に、「息子を殴ったらしいなあ!?」と電話をかける。
答えは「はい。おたくの息子さんは、ジョン・ウィックの犬を殺し、車を盗みました」というもの。
ボスは答えを聞き、「oh」と言って受話器を置くことしかできない!!
そのテンションの落差!!
ドラ息子に、ボスがジョンのやばさを伝える時のセリフ!
「奴は鉛筆一本で3人の男を殺した。鉛筆でだ…。」
部下に護衛を指示する時のセリフ!
手下を集めろ!何人ですか?
「1人残らずだ…。」タマラン!

そして、半信半疑の息子ちゃんが送り込んだマフィア構成員たちを、暗がりの中次々と手にかける暗殺術!!
柔術で投げ、押さえ込み、至近距離から胴体と頭に銃でバンバン!
腰を落とし両手で銃を構える実践的な基本姿勢!
省略されがちな弾込めまで逐一描写するリアリティ!
カット割りを最小限に、あくまでキアヌ本人の流れるようなアクションをナチュラルに魅せることを目的に計算され尽くした撮影!!
その結果描かれる、スピーディーで美しいが、本物感を失わないアクション!!
キアヌの肉体の躍動は、見ているだけで、映画の喜びを感じさせる。
これぞアクションの最新形、10年代アクションというものだろう。
アクションと言えば、本作はカーアクションも凄い。
カーアクションと銃撃をここまでリンクさせた演出は記憶にない。
ジョンのやっていることは大量殺人なのだが、観客もジョンにどっぷり感情移入している結果、次々と敵を倒していく姿に強いカタルシスを感じる。

今作の殺し屋たちが跋扈する世界観は、リアリティから離れたコミック的なもの。
これは、ジョンの行為について変に現実的に捉えず、カタルシスのみを味わうことができる、絶妙なバランスだろう。
死体の始末屋の不気味な存在感!
殺し屋ホテルの謎めいたローカルルール!
この世界観で続編が見たい!と思わせる。

ジョンの自宅、殺し屋ホテル、ダンスホールといったロケーションの色彩含めたデザインも、いちいちカッコいい。
ジョンが「仕事モード」に入り、それまでのだるだるの部屋着からぱりっとしたスーツに着替えるあたりも、カッコ良すぎ!である。
今作の映像は、全体にアート風であり、こちらも殺人のどぎつさを中和しているように思う。

スピーディーな語り口で、全体を100分程度の比較的短い尺に収めた点も大変見易い。
やりたいことに全力フォーカスした、ジャンル映画のお手本のような作品と言えるだろう。

ないものねだりを承知で不満点を言えば、ジョンに匹敵する強敵がいないため、観客も途中から、ジョンが負けるわけないから!と安心してしまうところか。語り口が滑らかなので、鑑賞中にテンションが下がるというわけでもないのだが。
無双の快感とスリルのバランスをとることはなかなか難しく、今作では前者に注力したということだろう。
この点は、続編に期待したい。

何も考えずに見られる、大満足の殺し屋アクション映画の傑作。
なお、ドラ息子役は、ドラマ「ゲームオブスローンズ」でシオン・グレイジョイを演じたアルフィー・アレン!配役最高ォォォ!!
イキッた時のオラオラっぷりと、ビビった時の怯えた表情のギャップが最高で、彼の演技は間違いなく、今作のカタルシス形成に大きく貢献している。