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闇の中の音楽のpikaのレビュー・感想・評価

闇の中の音楽(1948年製作の映画)
4.0
オープニングにて病院で死の淵を彷徨っているシーンは後のベルイマン節の一端を感じられる幻想的なシークエンスになっていて、未完成ながらもさすがのセンスの良さにゾクゾクする。
事故で視力を失い婚約者に去られ、視界も未来も全く見えなくなった青年のドラマで、盲目というアイコンを元に闇を表現した照明演出が素晴らしく、暗闇の中に浮かび上がる光や敢えて顔に影を落とし距離感を表現する演出など、心情表現が美しく見事。

盲目の障がい者としての生活や人間関係は劇的な誇張がなく自然なリアリズムで描かれていて、人を信用できなかったり一人前に扱われなかったりと、仕事や隣人との関係などの辛辣な問題が日常のものとして積み重なり、能力への偏見や社会生活の難しさに自分らしく生きることを制限され、終いには卑屈になってしまう、というような精神的な変化をライトに描写していて非常に巧み。

主人公の苦しみを疑似体験する観客にとって、暗闇の中で唯一眩い光を放つヒロインの輝きはドラマ的にも画面的にも清涼剤のような緩急を生んでいて、純真な笑顔や優しさ溢れる気遣いにカタルシスを得る。

ブツ切りな展開や意表を突く音楽など、監督4作目であるがゆえの荒削りというより他の人の手が入ったんじゃないかと思わしき演出はあるけど、いきなり素っ裸になるヒロインやグンナールさんの出演、ストーリーに直接関係がなくても画的に抑揚を生む小粋な演出まで、センスの良さは端々に現れていて素晴らしい。
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