倉科博文

イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密の倉科博文のレビュー・感想・評価

3.8
エニグマ解読の史実は知っていたが、その裏にこんな人間臭さが息づいていたとは想像だにしなかった

数学に関して、飛び抜けた才能を持った者たちー
第二次世界大戦下、彼らは極秘裏に大きな任務についていたー
ドイツが誇る世界最高の暗号機エニグマー
その巨大な壁を突き崩すことに人生を賭けた彼らの知られざる素顔と、彼らをとり巻く生々しい駆け引きを描くー

議論するまでもなく確実なことが二つある

優秀な人間に権限と裁量を与えること
しかし、これは政治的には最善とは限らない
大きなリスクをはらむ場合があるからだ
優秀な人間に予算を与えるということは、むしろ経営的といっても良いかもしれない
しかし本作中で英国は、リスクをとって成果を最大化させることができた 
これが本当にチャーチル本人の決定なのだとすれば、彼には非常に優れた経営者の才覚があったということなのだろう

もう一つは、差別は許されないということ
2020年になった今もなお、議員の中にも杉田水脈や白石正輝のように、LGBTをあげつらう輩はいる
あまつさえ社会的な支えや理解が全くない不遇な時代を生きたこのような人々は、どれほどの煮湯を飲まされたことだろうか

一方で複雑な気持ちにもなった
自分の周りにいたデリカシーのない人間に対して抱いた苛立ちや、変人と天才の境界を行き来する人々への憧れ、時代に受け入れられず自ら命を断つ者の心境
そんな気持ちがない混ぜになり、自分だったらエゴイスティックなアラン・チューリングを目の前にして、適切な対応が取れるだろうか、と不安になる

もちろん天才には「エゴ」が必要なんだとも思うが、彼は「エゴ」だけに突き動かされた訳ではなかった
もし彼の原動力が、「エゴ」であれば、彼は自分の成果をいち早く公表したかったはずだ
しかし、そうしなかった
これは、彼が自らの「意思」によって、「チームの勝ち」に徹したからだと思う
しかし、この物語が皮肉なのは、彼がそのようにして貢献を果たした「自由主義」陣営は、その彼に対して鎖をかけ、十字架を背負わせ、『ゴルゴタの丘』に連れて行ったのだ
「自由主義」陣営が、本当に思慮的にも自由になり、彼のことを理解出来る様になるのに、こんなにも時間がかかってしまったのだ
このことを思うと、この不条理な世の中と、我々の愚かさに涙が止まらないのだ