サマセット7

戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-01 口裂け女捕獲作戦のサマセット7のレビュー・感想・評価

3.6
オリジナルビデオ「戦慄怪奇ファイルコワすぎ!」シリーズ第1弾。
監督は「ノロイ」「貞子vs伽倻子」の白石晃士。
主演はシリーズ通じて大迫茂生と久保山智夏。

映像制作会社のディレクター・工藤仁(大迫)は、社に投稿された動画に興味を示す。
その動画には、猛スピードで走るマスクの奇怪な女性が映っていた。
動画に有名な都市伝説「口裂け女」を見出した工藤は、アシスタントディレクター市川美穂(久保山)、カメラマン田代正嗣と共に「口裂け女捕獲作戦」という奇想天外な企画を進めるが、それは摩訶不思議な体験の始まりだった…。

いわゆるフェイク・ドキュメンタリー形式で作られた、オリジナルビデオ・ホラーシリーズ第一弾。
ごくごく低予算の作品だが、シリーズが回を進めるごとに評判を呼び、ジャパニーズ・ホラーの分野で独自の立ち位置を築く白石晃士監督の代表作となっている。

第1作目である今作は、一見、割とよくある投稿実話検証系ホラー(ほんとにあった!呪いのビデオなど)のフォーマットに従っているように見える。
全ての映像は作中の人物の手持ちカメラの映像、という設定。
スタッフは、「口裂け女」の映った動画を検証し、走力や移動の不可思議さを見出していく。
まさに低予算で作られたモキュメンタリー・ホラーだ。
しかし、途中からディレクターの工藤という男の異常な行動力が際立つようになっていき、同時に心霊ホラー的な超現実的な事態が重なり、見たことのない独自の味わいを出すようになる。
口裂け女を捕獲、というアイデア自体奇抜なものだが、事態が現世の理解を超えた域に達した段階でなお、工藤の狂った言動もエスカレートしていくために「この男、マジだった…!!!」と驚かされる点が、今作の最大の見どころだろう。
そのシュールさは、ホラーというよりブラックコメディのそれである。
面白さ、という意味では、低予算ゆえのチープさはむしろ良い方向に効いている。

全編のトーンはシリアス。
だからこそシリアスな笑いが生まれて面白いのだが、手持ちカメラによる撮影手法の結果、偶然映ってはならぬモノが映り込んでしまった、というようなゾクゾク感は、絶妙に失われておらず、興味を引き続ける。
この奇妙な味こそが、白石監督の特徴なのかもしれない。
ホラー作品としては、面白さが優って恐怖は控えめ。いわゆるお化け屋敷的なドッキリ演出も多くはない。
その意味では、ホラーが苦手な人も、不条理コメディとして楽しめると思う。

今作からは、オリジナルビデオならではの、独自の面白いものを作ってやろうという気概が感じられ、それこそが今作のテーマと言えるかもしれない。
まさしく、作中の工藤を突き動かすのは、創作者としての面白いものを作ってやろうという野望であり、その想いが突き抜ければ突き抜けるほど、展開は面白くなっていくのである。
今作単体では、だからどうした、というところまでは描けていないが、今作にそこまで要求するのは色々な意味で野暮だろう。

評判によると今作はまだまだ序の口らしい。
たしかに、伏線らしき描写も見られ、単作として評価するのは適切ではなさそうだ。
掴みとしては上々である。

独自の味わいが光る、実録風ホラーのオリジナルビデオシリーズ第一弾。
次作以降も楽しみたい。
特に4作目の評価が異常に高いのが気になる。