emily

ユー・ウォント・ミー・トゥ・キル・ヒムのemilyのレビュー・感想・評価

3.7
人気者のマークはチャットでレイチェルという女性と出会い恋に落ちる。彼女から弟ジョンの事を気にかけてほしいと言われ、ジョンに接触する。一方レイチェルは彼氏からDVを受けており、突如連絡が取れなくなる。ジョンとは良い友情関係を育んでおり、姉が自殺したことを聞かされ、彼氏に殺されたと確信し彼氏(ケビン)への復讐を企てるが、そのケビンを追ってるというMISのエージェントが接触してきて・・・

 ネット社会の恐怖を見事に切り取った、2003年に実際に起こった事件である。事件後マークが逮捕されている状態から物語はスタートし、自分を「ヒーロー」だと笑顔で言う。そこから過去へ回想していく形で、今と切り替えながら描写していく。きらびやかなギターポップが青春時代に寄り添い、マークとジョンの一コマは青い色彩に包まれており、引きのカメラや二人の構図も立体的で、寒々した空気感が漂っている。チャットルームの中で繰り広げられる世界と、弟ジョンを通じて語られる現実の世界、その間の歪を見事にかき消し、平面の世界として見せてくれる。さらに登場するMISのエージェントの話。冷静に客観的に見れば疑惑しかないのだが、”ケビンを殺してやる”という熱い物が煮えたぎってるマークは非常に無防備な状態で、逆に洗脳されやすいのだろう。

 ネット社会が現実を超えてしまいつつある現代社会に起こりつつある事件。ラストに見えるすべてのシナリオを操ってる存在。すべてを監視され、すべて把握されている見えない存在が脅かす社会の裏を、そうしてその犠牲者に気が付かぬ内に誰でもなりゆる今の世の中を、あらためて恐怖を観客に残していく。匿名だから自由であるが、自由ほど怖い物はない。
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