YasujiOshiba

Mommy/マミーのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

Mommy/マミー(2014年製作の映画)
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『ダンサー・イン・ザ・ダーク』が好きだという女の子に勧められて鑑賞したのだけど、感謝しないと。これは名作。グザヴィエ・ドランという若き才能に脱帽。

名作の例にもれず冒頭のシーンから、ビビッときた。車から通りが映し出されるところで、ちょっとしたカー・アクシデントが起こるのだけど、その撮り方でもう直感的に名作になることを確信。

なにしろスクリーンサイズが特徴的な1:1。なんだか iPhone で撮ったみたいなナマナマしさがあって、それがヌラリと広がってゆくわけ。そんな空間イメージとナラティブの肌理が、なんともいえない光学的なスペクトルを立ち上げてゆくって感じ。

この光学的なスペクトルなんだけど、ぼくが見るところでは、個性的な登場人物の皮膚の肌理において雄弁なる気がする。

それはたとえば、Mommy のペンダントをぶらさげるダイアン。この母親を演じるアンヌ・ドルヴァルって、とても印象的な女優さん。ぼくと同い年ぐらいだからなのかもしれないけど、ともかく不思議な親近感を感じさせてくれる。それはきっと、その幾つものシワをカメラにさらけ出しているからかもしれない。いくつものストーリーが秘められているように、実際にもそうなんだろうけど、ぼくらは感じてしまうわけだ。

もちろん肌のリアリティだけじゃない。このダイアン/アンヌのまくしたてるケベック訛り(?)のフランス語がすごい。なんなのだろう。言葉なのに虹色のスペクトルを持っている。すれっからしたその響きが、独善から寛容までのあいだを揺れ動き、喜びから絶頂から絶望の淵までのアップダウンを繰り返し、蒙昧な狡猾さと狡猾な無知をさらけ出しながら、深い深い mommy は気持ちに、ぼくらを共鳴させてくれるのだ。

そんな声が向けられるのは、彼女の息子なんだけど、そのスティーブを演じるアントワーヌ・オリヴィエ・パイロンがまたいい。イノセントでありながらもはやイノセントではいられないという現実に突き当たって揺れる男子の生理的な焦燥は、彼の肌の透き通るような肌理によってはじめて、リアリティを持つ。そのリアリティこそは、この若き監督の才能による創造物にほかならない。

すごい、いやあ、まいりましたわ。
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