こたつむり

だれのものでもないチェレのこたつむりのレビュー・感想・評価

だれのものでもないチェレ(1976年製作の映画)
3.8
★ 吐き気を催すほどに醜い世界の果てで

うわぁ…。これは…。
孤児が奴隷のように扱われる世界の物語ですが…これが“胸糞が悪い”というやつですね。劇中できれいな夕陽を見ることが出来ますが、そのオレンジ色から血が滴りそうなほどに衝撃的でした。

しかも、鑑賞後に知りましたが、ある少女の原体験が物語の下敷きにあるそうです。劇中で描かれた“地獄”が世界の片隅で実在したことに驚きを禁じ得ません。

何しろ、冒頭から“すっぽんぽん”ですからね。
今のご時世、本作を鑑賞していたら“児童なんとか法”で捕まってしまうのではないか、なんて考えてしまうビジュアルなのです。

他の子供たちは服を着ているのに、彼女だけは裸。そんな映像だけで主人公の立ち位置が伝わってきます。

しかも、彼女は養母に言われます。
「おまえの持ち物はおまえの身体、それだけだ」と。

たかだか6歳だか7歳だかの少女ですよ。
まだまだ親から祝福を浴びる年頃ですよ。
彼女の何が悪いのか。
前世で悪い行いをした贖罪だとでも言うのか。

もうね。
胸が詰まって、詰まって、詰まって…ただただ現実を呪うことしか出来ません。

しかも、不用意に音楽で煽ることもなく。
安易に救いの光を描くわけでもなく。
ハンガリーの片田舎を淡々と描写する筆致なのに目が離せないのです。これはひとえに怒りと哀しみの波で胸中の堰が決壊しそうだから…なのでしょう。やるせない物語です。

まあ、そんなわけで。
“児童なんとか法”を恐れずに復刻してくれたから鑑賞できた作品。字幕なども劇場公開(1978年)のままなので少し読みづらいのですが、そんなハンデは微々たるもの。遍く世界の人々に触れてもらいたい作品です。
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