ふき

刺さった男のふきのネタバレレビュー・内容・結末

刺さった男(2011年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

「刺さった男」ロベルトを通じて、「La Chispa de La Vida:人生のかがやき」を描き出す作品。
……だと思うのだが、ロベルトが死ぬという「驚きの結末」によって、焦点がぼやけてしまった。

なぜならこの作品は、「変化」を描いていないからだ。
ロベルトは「家族のためにお金を稼ぐ」と考えたまま死に、ロベルトの妻は「お金よりも家族が大事」と最初から持っていた理想を貫く。クライマックスで描かれる家族の撮影シーンは、ロベルトと妻が最初から持っていた「家族が大事」を再確認しただけで、両者の本質的な気持ちの方向性が交わったわけではない。死にゆくロベルトも、それを見送る妻も、物語開始時点からなにも変わっていないのだ。
群像劇的にはどうかと考えても、市長や守衛や広告会社や医者や代理人といった人々も、「刺さった男」を通じて変化した点は描かれていない。強いていえば、ロベルトの息子がブーツを捨てたのが明確な変化だが、彼はそもそも「変わる前」が描かれていない。
だから、見終わってからタイトルである「人生のかがやき」について改めて考えようとすると、何も語られていなかったことに気付く。考えようとしても、何も残っていないのだ。

手術直前まで本作が語ってきた方向性なら、結末は大別して三つしかないだろう。
以下、いい話順で。
・「家族を養っていくだけのお金が欲しい」と考えたまま手術を終えたロベルトが、妻のテープを売らない決断をして、自力で人生を立て直すことで「人生のかがやきという尊厳」を取り戻す。
・生き延びたロベルトがテープを売らないままに、広告会社やテレビ局をギャフンと言わせるような方法で大金をゲットする。表面的には一番ハッピーエンド。
・死んでしまったロベルトの考えを妻が尊重し、ロベルトの死をなんらかの形でお金に変えて、家族をいい方向に立ち直らせていく。

言い方は悪いが、ロベルトが死ぬという「お手軽な」どんでん返しで、「La Chispa de La Vida:人生のかがやき」というタイトルがすべて引っくり返ってしまった。
ブラックコメディでは笑えるし、キャラクターは魅力的だし、クライマックスの家族の絆を確認し合うシーンでは感動するから、つまらない作品とは言わない。だが、強くオススメもできない作品だった。
ふき

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