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オマールの壁のemilyのレビュー・感想・評価

オマールの壁(2013年製作の映画)
4.6
パレスチナでパン職人のオマールは、分離壁をよじ登っては壁の向こうにいる彼女のナディアや幼馴染に会いに行っていた。占領状態が長く続くパレスチナでは当然自由はない。人権もない。そんな日々を変えたいとオマール達はイスラエル兵を銃撃するが、即時につかまってしまう。そうして警察が突き付けたのは、一生囚われの身になるのか、仲間を売って、警察の仲間になるのか。究極の選択を迫られたオマールが出した答えとは・・

冒頭からそびえたつ分離壁をすいすいと手に血豆を作りながら、超えていくオマール。猿のようにすばしっこくて、町の人たちもすぐ援護してくれるのがわかる。

イスラエル・パレスチナ問題をしっかり捉えながらも、そこにテーマを置いておらず、人間の弱さやはかなさにラブストーリーとアクションを織り交ぜた、ジャンルを超えた作品になっている。

固い友情が裏切りと嘘の交差で徐々にいろんな方面から壊れていき、そこに甘酸っぱい恋愛物語も罠に陥っていく。絶対的な信頼も、自分が境地に置かれると優先順位が変わってくる。そんな極限状態に追い込まれた人たちの距離感は非常に緊迫感があり、ストーリー展開も一転、二転するので、観客を夢中にさせる。

逃げるシーンのアクションも非常に見ごたえがあって、スリリングでスピード感がある。それに対比するラブストーリーも二人が見つめ合いフレンチキスをするだけで、極上の幸せが伝わってキュンとさせられる。現実が厳しければ厳しいほど、その甘酸っぱい恋愛物語がきらびやかに見えるのは言うまでもない。

目の前に立ちはだかる大きな壁はナディアがいて、幼馴染がいて、つらい現実の中にもひと時の幸せがあったときには、すいすいと超えて行けた。しかし裏切りと嘘の連続で、その壁以上の小さな箱の中で飼いならされた状態となった2年後には、壁はさらに大きく、のぼる事ができない。あの頃の壁とはくらべものにならないいくつもの壁がオマールを苦しめる。

そうしてすべてを決断したときのオマールのきりっとした顔には、冷酷さと生の通わない、無の状態を感じ取った。残酷な現実下にも同じように青春物語があり、しかし過酷な現状がそれをいとも簡単に壊してしまうのだ。その壁を作ったのが人ならば、壊すのも人である。作ったものは必ず壊す事ができるはずだ。
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