たく

アイアムアヒーローのたくのレビュー・感想・評価

アイアムアヒーロー(2015年製作の映画)
3.7
売れない漫画家がゾンビパニックの中で自分の弱さに向き合う話で、使い古されたゾンビモノの定型パターンを使いながらなかなか見応えあった。荒涼とした風景の遠近感のある映像や、迫力あるゴア描写にけっこうお金がかかってるんじゃないかと感じた。大泉洋はこういうダメ男っぽさのなかにカッコよさを見せる役がぴったりだね。

謎の感染症が広まりつつある日本。自作の漫画が売れず彼女ともうまくいっていない英雄がある日帰宅すると、彼女が突然発作を起こして異常な動きを見せる。ここから定番のゾンビ映画となっていく展開で、まず人がゾンビ化した状態を最初にはっきりと見せるこのシーンの片瀬奈々の振り切れた演技に、「変態仮面」のSMママを思い出させる。あっという間にパニックが広がる中で、英雄が女子高生の比呂美に出会ってイチャイチャするのがちょっと出来過ぎな感じなんだけど、有村架純が可愛いのでまあ許す。

本作は名前負けしてた男が名前(英雄)に追いついて本当のヒーローになる話で、彼がそれまで躊躇ってたライフルの引き金を、終盤で意を決して引くことが弱さを断ち切る象徴になってた。同様に、患者を見捨てた看護師の藪がその後悔の念から比呂美を守ることも、己の弱さの克服として描かれてた。無政府状態で権力闘争が起きるくだりが胸糞悪いんだけど、これも心の弱さから来ることだよね。

比呂美が感染して半ゾンビ化したまま英雄と同行するのが「鬼滅の刃」の禰豆子にそっくりで、ゾンビ化したのに暴徒化せず人間味を残してるという点では「ウォーム・ボディーズ」も同じ。この手の映画は不条理な状況に始まってそれが解決しないまま終わるのが定型で、だいたい生き残りの主人公たちが車で街を去る幕切れなんだよね。ゾンビをZQN(ゾキュン)と呼ぶネーミングセンスが良かったのと、どんな緊急時にもアニメを放送するテレビ東京までが緊急速報に切り替わるのを、事態の深刻さの表現として使う演出が秀逸。
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