つかれぐま

レヴェナント:蘇えりし者のつかれぐまのレビュー・感想・評価

レヴェナント:蘇えりし者(2015年製作の映画)
4.5
16/5/1 大泉(公開時鑑賞)

復讐の手前にあったもの

撮影のエマヌエル・ルベツキは、本作で3年連続!のアカデミー撮影賞を受賞した「神の域」のカメラマンだ。まるでモネの絵画のように光の描写がとにかく美しいが、それだけでなく見たことのないような超広角から、演者の吐く息でレンズが曇る程の接写まで、あらゆる撮影技法が凝らされ、この長尺でも全く飽きることはなかった。

寒く、痛く、汚く、救いのない話だが、カメラが捉えた(お釣りが来るほどに)美しい自然が全て持っていく鬼の画力の作品だ。

(そんな本作では脇役と言える)人間ドラマだが、初見時こそ復讐の物語に見えたものの、実は人間の持つ偽善性をテーマにしているのでは?と感じた。あの状況で彼を「見捨てない」ことは、冷静に見れば偽善的な行為だ。隊長や若いブリジャーは、仲間を殺める(見捨てる)という原罪から逃れ、フィッツジェラルドが都合のいいスケープゴートになっていた。中でも最大の偽善は他ならぬグラスだ。グラスはフィッツジェラルドに自ら止めを差すことなく「復讐は神の手に委ねる」と言い放つが、これはすぐそこにいる原住民が彼を殺めることを確信しての、実に狡猾な判断だった。そしてグラスは自分も殺される覚悟を決めるが(むしろそれを望んだのでは)、原住民はグラスを殺さない。これは神がグラスに与えた罰だ。

この解釈は「復讐は神の手に委ねる」という台詞が2回登場したことから考察したもので、残念ながらデカプリオの演技から読み取れたものではない。この傑作の唯一残念な点は、彼の演技がテーマの難しさに追いついていないように思う。グラス役に本来要求されたのは、魚や肉を生で喰うような根性ではなく、こうした葛藤を表現することではなかったか(andもう少し減量して欲しかった)。逆に対峙したトムハーディーの演技からは、偽善者たちへの静かな怒りのようなものが伝わってきた。

デカプリオのサバイバル展開に焦点があたってしまい(その方がエンタメ性は高いので面白いのだが)前述したテーマが霞んでしまうストーリー運びが惜しい。