T太郎

シャトーブリアンからの手紙のT太郎のレビュー・感想・評価

3.8
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ドイツ・フランス合作映画。
監督はドイツの人である。
名作「ブリキの太鼓」を手がけた有名な監督だ。
申し訳ない、ご芳名は失念しました。

1941年、ドイツ占領下のフランスが舞台である。
フランスのシャトーブリアン地方にあったある収容所にて。

ドイツ軍が管理する収容所での話だが、ホロコースト映画ではない。
登場するドイツ兵はほとんどが、非ナチス党員なのである。

この収容所には、共産主義の政治犯などが収監されているのだが、時期が来れば釈放されるし、明るく開放的な雰囲気がある。
ドイツ兵とフランス人囚人との関係は非常に良好なのだ。

冒頭まず、その様子が描かれる。
17歳の少年ギイは、レクリエーションの徒競走で優勝し、喜びを爆発させる。
ドイツ兵も笑顔で彼を祝福するのだ。

他にも隣接する女子収容所の少女を口説いたり、仲間とボクシングに興じたり、親友であるクロードとふざけ合ったり。

そのクロードは“明日”釈放される事になっていた。
彼の妻も面会に来所し、翌日の釈放を待ちきれない様子である。
彼の釈放を収容所の所長も喜んでいた。

不穏な雲行きなど、微塵も感じられないのである。
この時点では。

そんなある日、町でドイツ軍将校の殺害事件が発生する。
犯人は地下の共産主義組織だと推察された。

ベルリンは激おこだ。
ヒトラーは相当怒り狂っているという。
・・総統だけに。

そして、ヒトラーが怒りに任せて発した命令が、全くもって恐るべきものだったのだ。

それは、報復として150人のフランス人を処刑せよ、というものなのである。
しかも、明日。

なんという愚かな命令だろう。

在仏ドイツ軍司令部は頭を抱える。
比較的、フランスとは良好な関係を維持しているのだ。
そんな事をすれば、ドイツ軍への憎悪感情が再燃するだけではないか。
占領政策に支障をきたすだけなのである。

たが、王様・・・ではなく、ヒトラーの言う事は絶対なのだ。
この命令は下へ下へと下達されていく。

そして、まず最初に白羽の矢が立てられたのが、シャトーブリアンの囚人たちだったのだ。

その中には、17歳のギイや釈放を控えたクロードも含まれていたのである。

タイトルにある“手紙”は遺書だ。
処刑の直前、囚人たちは時間を与えられ、家族への手紙を書く事を許される。
その手紙の事なのである。

実話を基にした物語らしい。
目隠しを拒否し、泣きわめく事なく毅然とした態度で銃殺されていった囚人たちは、誇り高く素晴らしい。
その姿は気高く神々しささえ感じられる。

だが、私はこの実話ベースというやつに、平素からいささか疑問を抱いている者である。
映画的に演出された部分や意図的に省略された箇所などが、必ずあると思っているからだ。

それはもう仕方ないのである。
そう思ってしまうのだから仕方ないのだ。
だって、仕方ないぢゃないか。

私の性格がねじくり倒している訳ではない事だけは、ご理解いただきたい。
(ねじくり倒すとは何ぞや)

だから、私はこう思うのである。
もう、仰々しく“実話”云々を標榜するのはやめにすれば、と。

それさえなければ、私は何のわだかまりもなく物語に没入できるのだ。
ねじくり倒す事もないのである。
(だから、ねじくり倒すとは何ぞや)

まあ、そこは些細な事である。
作品自体は非常に良かったと言わざるを得ないのだ。
重くて深刻な内容ながら、分かりやすく戦争の無常感や残酷さを伝えてくれる作品だと言えるだろう。

シャトーブリアンと聞いてお肉の映画だと勘違いした方は、大いに反省していただきたい。
(お前や)
牛など1頭たりとも出てこないのだ。

         完
T太郎

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