空海花

沈黙ーサイレンスーの空海花のレビュー・感想・評価

沈黙ーサイレンスー(2015年製作の映画)
4.2
自宅鑑賞4月分ラスト1本
順繰りに戻ったら「名もなき生涯」をレビューした後にこれに触れるのはサラッといけないしんどさが。。
ですがせっかくなのでちょっぴり比較入ります。
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遠藤周作の原作をスコセッシが念願の映画化。
この原作は映画化は2度目で、1回目は篠田正浩監督が映画化している。これは未見。
遠藤周作はいくつか読んだことがあるが、
キリスト教的な感じがあまりなじめなかった記憶がある。たぶん子供だったので理解できていなかった。

スコセッシ監督の中でもこれは名作だと思う。
脚本演出も素晴らしいし
厳しさを醸し出す映像の美しさに
虫の音、波の音が印象的。

特記すべきはキャスティングで
先に日本への布教活動に行き、戻らない宣教師。捉えられ棄教した噂も立つフェレイラ神父をリーアム・ニーソン
噂を信じがたく思いながらも彼を探しに行く、その教え子ロドリゴ神父をアンドリュー・ガーフィールド
ガルペ神父をアダム・ドライバーが演じる。

主演のガーフィールドは「ハクソー・リッジ」でも神の教えを信念において“救う”ことにその身を捧げようとする純粋なクリスチャンを演じるが
今作でも熱心なキリスト教徒であり、神父というもっと宗教に直接的な役である。
神の不在、“沈黙”への回答を見つける姿まで、
長尺作品ながら目が離せない。
ガルペの方が感情的な性格を見せ、日本への布教に多少の疑問を持つが、
隠れキリシタン達の処刑に我を忘れて走っていく姿に胸が熱くなった。
そしてリーアム・ニーソンの威厳。
謎は終盤まで触れられない。

日本の描き方も然る事ながら
日本人の役者も絶妙に揃えていて、かなり驚いた。
それぞれの役どころもしっかりと描かれており
特に印象的なのは塚本晋也監督演じるモキチ。
神に殉じることに迷いは微塵もない。
窪塚洋介演じるキチジローは重要な役回りである。
どうやって日本人キャストを選んだのかとても気になる。
かつてのキリスト教の布教活動が日本のキリシタンにどう落とし込まれていったのか、それぞれの姿を繊細に描ききっている。

信じていれば天国に行ける。
殉教が一種の恍惚、昇華になる。
だがそれは自身の満足に過ぎないとも言える。
魂の救済もそうだろうが
隣人を弱き者を助けることこそ教義の信条ではなかろうか。

難しくとっつきにくそうなテーマでありながら
結論を有耶無耶にしない、スコセッシ監督らしい見事な作品である。
原作者と監督が海を隔ててクリスチャンであることで、両面からの描写が素晴らしく納得が行く出来であると思う。


この映画ではそうだが
これが政治的となるとやや趣が違う。
「名もなき生涯」ではヒトラーに忠誠を誓わされる。
形式的にだけでいいと皆に説得される。
それでいいと私も思う。
でも嘘はつきたくないし
戦争に行って人を殺したくはない。
口先だけでも言いたくない。
心と裏腹に全員が回れ右をすれば、国全体がそうだということになってしまう。
その時は全体から見ればたとえ小さな反抗であっても
その意思は歴史や政治的な面に影響しその後をほんの少し良くする。
それでも家族や友人にそうしてほしくないし
考えてしまう。
今後そんな選択を強いられることのない世界であることを願うしかない。
いや、広めていけるなら、無力さを感じずにすむのかな。


2020自宅鑑賞No.28/104
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