むさじー

孤独のススメのむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

孤独のススメ(2013年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

<LGBTをテーマに、それを超えた人間愛と自由を描く>

登場人物の何とも不思議な関係性と、先の読めない展開に戸惑う映画である。
描かれるのはLGBTの世界なのだが、それを否定し、無縁だった男が、テオという異分子や、それを支えようとする妻と関わり、隔離されていたその垣根を鮮やかに跳び越えていく。
宗教に支えられながらも孤独だった男が、それまでの常識や偏見に満ちた世界から抜け出し、自らの心を開放し自由になっていく。
バッハしか聴かなかった男が、ゲイの息子が歌う「This is my life」に理解を示すようになる。
原題は「Matter Horn」で邦題と全く違う。
原題は象徴的かつ漠然とし過ぎているので、邦題の意図するところは「信仰に縛られたコミュニティを一歩出て、孤独な暮らしを求めたら、別の新しい世界が広がるかも……」と理解した。
自分の殻を破ってみる、今までの信念を疑ってみることで一つ前に進めるかもしれない、というメッセージと受け止めた。
監督は「この映画はLGBT作品として撮ったものではない。オランダではLGBTへの理解が進んでいるし、本当に自由な場所ではLGBT問題なんて存在しない」と述べている。然り。
初めての長編映画ゆえに多少の粗さは見える。
動物の真似(明らかに異常な行為)が受けて余興に呼ばれるという展開は強引過ぎるし、サスキアは自身の葛藤が描かれない分、いい人過ぎる謎めいたキャラになっていて、一般の感覚からするとやや無理が感じられた。
万人に受け入れられる映画ではないが、真の優しさ、温かさに満ちた異色の秀作である。
むさじー

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