もう一度見たいとはあまり思わないけど素晴らしい作品でした。「喪失」というものをじっくりと描いていました。いつもそこにある日常の風景の一部がいきなり削り取られてしまう。世界貿易センタービルが突如崩落したように。あっけにとられ半ば茫然自失の主人公。感情の行き場がなくなり奇妙な行動を取るようになる。妻を愛していたとか愛していなかったとかは正直分からない。他人と同じ位の喪失感が得られないと故人を偲んでいないなんて、それはそれでおかしな話だし。主人公の心だって悲鳴を上げていたはず。色んな物を分解したり破壊したりする行為は、怒りや悲しみの発散と言うより、今まであったそれは自分の力では元に戻せないという心の表れでは？彼の心に出来た喪失感を彼の頭の中では理解できていない。「もう元には戻せない」という事を本人自身に理解させる事だったのかなぁと思っています。妻との思い出の回転木馬を改修して義理の父母を招いて乗せているシーンは、元に戻ったとしてももう同じ光景にはならないという象徴なのかな。それを踏まえた上で桟橋を全力疾走する彼の姿は、ようやく何かが動き出した兆しを見た気がしました。これはお金に余裕がある人のリハビリですね(笑)。
