ジーナ

ブレーメンの自由のジーナのレビュー・感想・評価

ブレーメンの自由(1972年製作の映画)
3.9
キャッチコピー:今週、妻が毒を盛ります...(勝手に作った)

19世紀頃にブレーメン市にて、ある女性が夫や両親、子供ら15人を毒殺し、最終的には公開処刑された実際の事件を元にファスビンダーが作った作品。

「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」と同じく戯曲の映画化であり、たった1つの部屋しか出てきません。
というよりも非常に独特な演出でして、背景に巨大スクリーンがあり、その手前にほんの僅かな家具がポツン、ポツンと置かれている簡素なステージが舞台となっている。
スクリーンにはほとんどブレーメンの海が投影されているのみ。
その空間で役者が舞台袖から出てきたり、はけたり、場面が暗転したり、照明が点いたりと、いわば演劇をそのまんま映画にしたような感じ。
とはいえカメラアングルは客席からの視点だけではなく、ステージ上のあらゆる方向から撮られているので退屈しません。

物語が始まる否や、妻ギーシェにやれ窓を開けろ、やれコーヒーを持ってこい等と指図する夫の横顔が映し出される。
指示を受けたギーシェは右へ左へ何度も何度も往復を繰り返す。
そのギーシェの姿は最初、ドタバタと大忙しな足元しか映らない。
夫は更に指図を繰り返したり、泣き止まない赤ん坊にうるさい!と怒鳴りつける。
そんなクズ夫の横顔とパシリにされるギーシェの足元が交互に映り、そこへ怒鳴り声、足音、泣き声が重なってゆく演出が最高にイカしてる。

そして、奴隷のような生活に耐えきれなくなったギーシェはコーヒーに毒を忍ばせ、ついに夫を毒殺してしまう。
それだけに留まらず、自由に、自分らしく生きたいと願うギーシェは都合の悪い人間に次々と手をかける...

極悪非道で許されざる悪魔のような女なのですが、美人女優マーギット・カーステンゼンが演じてるおかげで何だか憎めないというか...。
こんな美人妻になら毒殺されてもいいかな?と思ってみなくもなかったりw

また、この事件が起きた時代は「女性は家庭入り、夫の為に尽くすこと」「婚姻関係にない男とは寝てはいけない」「女が知恵を付ける必要は無い、親や夫に刃向かってもいけない」という考え方が当たり前のようにまかり通っている。
ギーシェの両親は狂信的なキリスト信者であり、娘が自由や自立を願うようになってしまった事にショックを受けて
、神の罰が与えられるわと説教する場面もある。
非難されながらも私だって好きな時に好きな男と寝たいわ!とギーシェは反発し、夫の事業を引き継ぎ経営者になりたいと願う。
しかし、周囲には軽蔑され、反対にあってばかり。

そんな家父長制や男尊女卑の概念が強く根付いた世界で自由を手にしようとする彼女の行為は、犯罪的というよりも限られた手段を用いた正義的な行為にも思えなくはない。
何故ならばそのような秩序・概念を作り出し、継承した歴史・世間自体が悪だったとも言えるからだ。

さて、この「ブレーメンの自由」の戯曲は日本語に翻訳されて一冊の本にもなっています。
ファスビンダー映画の研究を長年されている渋谷哲也さんの解説もあり、非常に鑑賞助けになりました!

ファスビンは個人的な映画や世の問題点を観客に投げかける映画が多く、抑圧的だとか差別的だとか叩かれていたようですが、彼は決して右翼でもないし左翼でもない。
映画を観た個々が自分のぶち当たっている問題点に向き合い、考え、取り組んでくれる事を目的に映画を作っていると言っていますが、本当にそんな気持ちがよく現れてるなぁと思います。
結婚制度そのものをよく批判的に描いていますけど(本人は2度の結婚歴はあるが)、確かになるほどなぁと目からウロコな部分もあるし、色々考えさせられる作品でした。

※ファスビンダー映画全制覇まで、あと8本!
ジーナ

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