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ヘイトフル・エイトのfujisanのレビュー・感想・評価

ヘイトフル・エイト(2015年製作の映画)
3.5
クエンティン・タランティーノらしさが詰まった作品

2015年の監督8作目。主要なキャラクターが8人だったり”ヘイト”の中に8がデザインされていたりと、様々な場所に8(エイト)が散りばめられているのは、10作で監督引退を公言しているタランティーノが自らカウントダウンをアピールしている形。

物語は南北戦争後数年とのことなので、まだいわゆる”西部劇”的な世界観の時代。監督が2012年公開の「ジャンゴ 繋がれざる者」でやり残した西部劇を完成捺せたかったとインタビューで語っているように、本作はガチガチの西部劇です。

猛吹雪に閉じ込められた山奥の山小屋で一晩を過ごすことになった8人の密室劇で、一応ミステリーということになっていますが、謎解き要素もどんでん返しも特に無く、ただただ監督らしい無駄話と血糊が飛びかうバイオレンス西部劇でした。

本作も監督らしい黒人差別の表現がベースになっており、そこに、さらに南北戦争直後という要素も加わって、人種間の憎しみ合いと元北軍、元南軍という憎しみ合いの対立軸が入り乱れ、正直、深い部分はよく分かりませんでした。

例えば、吹雪で閉じ込められた8人が話し合うシーン。『このままじゃ、俺たちは殺し合いだ。部屋を二つに分けよう。ここが境界線だ。そうだな、じゃあこの真ん中のテーブルがジョージアってことでどうだ?』 、で全員ニヤニヤ・・・みたいなのは、正直意味がよく分からないわけです。

本作はアクションも控えめで会話劇中心の作品。上に書いたような、いがみあい、憎しみ合いの深い意味はアメリカの歴史がベースになっており、タランティーノ味あふれる無駄話のやりとりに面白さはありますが、表面的なワチャワチャだけを観ている167分は、ちょっと長く感じてしまいました。

一方で、「キル・ビル」に続き、種田陽平さんが担当した山小屋の内装などの美術や、エンリオ・モリコーネが作曲した西部劇の音楽は素晴らしく、大規模予算を感じる壮大な映画の完成度は高いと思いますが、映画のすべてを理解するには力不足でした。

これでタランティーノ監督で未見なのは「デス・プルーフ」だけになりましたが、個人的にはやはり初期の作品が好きですね。

「イングロリアス・バスターズ」あたりから、歴史改変みたいな軸も増えてしまって、作品の時間も長くなってしまった印象。先日「レザボア・ドッグス」を観たこともあって、初期のシンプルな構造の映画のほうが好きだなと感じてしまいました。
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